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COLUMN

TOPATO通信生産緑地選択の悲劇 5105号

ATO通信

5105号

2001年2月28日

高木 康裕

生産緑地選択の悲劇

東京の中でも練馬区や世田谷区は、未だに畑が多く残っています。そして、よく見ると『生産緑地指定地区』の看板が。何のことか、馴染みのない方も多いことと思います。
要するに、農地としてこの指定を受けることにより、宅地としての高い評価を免れる制度、とでも言えるでしょうか。
基本的に、東京や横浜など、大都市の市街化された地域にある農地(以下、都市農地と呼びます)では、農業を継続していくことは非常に厳しい状況下にあると言うことです。
何が厳しいのか、それが本日のテーマです。


1.固定資産税はどうなる?

都市農地、正確には三大都市圏の特定市街化区域内農地と言います。農地となれば、固定資産税の評価は、非常に安いのです。
が、この地域の農地は、本来市街化を進める区域のため、宅地並の課税となってしまうのです。農業を辞めろとは言えません。どうしてもと言う人には、生産緑地の申請を提出させ、その指定をしています。これで、例外的に非常に安い、農地としての課税です。
ただ、これには条件が付きます。自分の都合で農業を辞め、土地の有効活用をすることは許されないのです。辞められるのは、①死亡②一定の故障事由(重度の身体的障害等)③30年間の営農の場合だけです。途中で辞めても、罰金を払えば済む訳ではありません。
そして、これらの事由が生じた時も、自動的には宅地化できないのです。市町村長に農地の買い取り請求ができるだけで、要は簡単には宅地転用ができないと言う事なのです。


2.相続税はもっと大変です!

かつては都市農地においても、相続税の納税猶予制度がありました。農業を継ぐ相続税が、相続後20年間農業に従事すれば、晴れて相続人は農地分はただ同然で免除です。 しかし、今や都市農地の状況はそう甘くはありません。納税猶予を受けようとすれば、先ずは生産緑地の指定を受けることが必要です。その上で、生涯、亡くなるまで農業を続けることが要求されるのです。途中で辞めれば猶予されていた相続税を支払い、利息分の延滞税も覚悟をしなければなりません。 相続人が生涯農業をやるかどうかは別にして、父親が固定資産税のために生産緑地を選択していると、とりあえず相続時の評価は生産緑地の評価です。ただ、この生産緑地の評価は、固定資産税とは異なり、期待するほど評価の低いものではありません。若干の造成費分は控除できるとしても、宅地の5%引きと考えて頂いて大きな間違いありません。


3.結論は相当な覚悟が必要です

結論を申しあげます。本人も相続人も農業一筋で今後の人生を送る覚悟があれば、何の問題もありません。都市農地でも、生産緑地を選定し、固定資産税の負担は軽いまま。相続税だって終身営農で納税猶予されれば、結局のところ納税負担はないのです。めでたしめでたしのハッピーエンド。 が、しかし。相続人は農業を継がない、本人も最低30年農業をやれるかどうかは分からない、となると既に生産緑地を選定している場合、もはや打つ手はありません。相続を待って農地をはずし、初めて相続対策です。


4.調整区域の市街化区域への編入

都市計画法という法律があります。市街化を促進すべき区域(市街化区域)と、抑制すべき区域(市街化調整区域)の線引きをし、国土全体として、均衡のとれた街作りを目指そうとするものです。  この法律が昨年改正となり、一言で言うと都道府県による線引きの見直しが、この春から施行される予定です。これにより、従来調整区域だったところが、市街化区域に編入の可能性があるのです。 編入された地域に農地がある場合、生産緑地とするかどうかを、その時点で選択しなければなりません。都市農地になり、放っておけば翌年から固定資産税は100倍以上に、その後の相続は納税猶予も不可能になるからです。ご本人も相続人も農業一筋でないならば、はっきり言って、生産緑地は選んではいけません。有効利用も相続対策も、何一つできないからです。冷たいようですが、法律は東京近郊では、農業をやるなと言っているのです。

※執筆時点の法令に基づいております