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COLUMN

TOPATO通信代償分割、贈与への応用! 5118号

ATO通信

5118号

2002年3月19日

高木 康裕

代償分割、贈与への応用!

相続で財産の分割をする場合、財産の種類や構成によっては、争いがあるわけではなくても、分割が難しいケースがあります。例えば小さな土地一つだけで、3人の相続人がいる場合です。こんな時、利用できるのが代償分割と言われる手法です。本来の目的以外にも、工夫次第では面白い利用方法が…


1.代償分割とは?

 相続人ABCの3人に対し、財産が前述のように小さな土地だけ、の想定です。売却すれば現金で分けられるものの、Aだけが相続すればBCは不満です。そこで、土地はAが相続するものの、その代わりにAが自身の預金を取り崩し、BCに相応分を支払うと言うもの。これが代償分割と言われるものです。分割協議書にAだけの相続を記載し、その後BCに資金を渡せば贈与税の対象です。しかし、代償分割を分割協議書に記載した上で実行すれば、贈与税の課税もありません。

 因みに相続税の計算上、代償物を貰うBCは代償債権として課税され、支払うAは代償債務として借金と同じ扱い。つまり、財産からの控除項目になるのです。


2.俺が死ぬまで払え!

 昔、相続人2人、兄妹でもめにもめた事案がありました。土地が大半の相続案件です。妹が折れる形で決着がつくかに見えたものの、兄はどうしても小銭が欲しい。そこで最後の切り札です。妹が兄に対し、二人の内どちらかが死ぬまで、毎月一定額を支払うという約束で一件落着。珍しい代償分割ですが、問題は相続税額の算出に際し、これをいくらで評価するかです。仮に1年に100万円払うとしましょう。期限のないものを、しかもどちらが先に死ぬか解らないものを、どう評価するのでしょう?


3.税法上の評価方法

 結論から申しあげると、生存条件付有期定期金の評価と言って、生存中に限って定期的に受けられる権利の評価方法が定められているのです。定期金とはこの種の金銭を受ける権利を言います。やや専門的になりますが、このケースでは期限が決まっている場合(有期定期金)と決まっていない場合(終身定期金)とを比較し、いずれか低い額で評価して良いことになっています。有期の場合の年数の前提は平均余命も一つの方法でしょう。

 さて、問題は終身定期金の評価方法です。1年間に受けるべき金額×評価倍数 と言う代物(しろもの) で下記の通り。

評価倍数法

権利取得時の年齢倍 数権利取得時の年齢倍 数
25歳以下11倍50歳超 60歳以下4倍
25歳超 40歳以下8倍60歳超 70歳以下2倍
40歳超 50歳以下6倍70歳超1倍

このケース、兄の年は56歳のため、年間100万円なら4倍で400万円の評価。

つまり、4年でもとを取る計算です。


4.こんな工夫で実質贈与!

 さて、上記の場合、4年以上兄が生存すれば、それ以降は課税もされず、丸儲けの勘定です。と言うことは、意識的にこの手の代償分割を親子でした場合、実質的な贈与が可能になるのではないでしょうか?
例えば、夫婦の間に子が一人で夫の相続がおきた場合です。配偶者控除を利用して、財産の半分までは無税で相続。分割協議の際、母が子に代償分割で払い続けるケースを考えてみます。年間1000万円として、子が40代なら6年、50代なら4年経過後は毎年無税で1000万円が子に移行できる計算なのです。相続税の節税にはつながりませんが、母と子が共に長生きできれば、贈与ができた上に母の相続時には財産が確実に減少していることに!二次相続の対策だってできちゃいます。
 何故、この様なことが可能なのでしょうか?定期金の評価方法が杜撰(ずさん)だからです。税務の世界はいつも同じで、これをやる人数が少ない内はお咎め無し。増えれば必ず評価方法の見直しです。早い者勝ち、やった者勝ちですぞ!

※執筆時点の法令に基づいております