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COLUMN

TOPATO通信相続後でも工夫はできる! 5120号

ATO通信

5120号

2002年5月31日

高木 康裕

相続後でも工夫はできる!

今月は、本業であれ、不動産所得の節税目的であれ、会社を所有されている中小企業オーナー向けのお話です。相続対策は事前の準備が何より大切。ただ、相続後でもこんな工夫ができる場合も…


1.会社への貸付金は要注意!

 中小企業の場合、懐勘定は個人も法人もなく、会社に資金が不足すれば、個人のお金を投入するのは日常茶飯事。筆者も偉そうなことは申しあげられません。当社自身、その例に漏れずです。
さて、税務上、法人が借りる側であれば、利息を支払わなくても特に問題はありません。いや、利息どころか、元金だって返ってこないことも多いはず。
注意すべきは、相続財産への影響です。例えば、個人から法人に1億円の貸付金がある状態で相続を迎えたとします。この貸付金はまさしく相続財産。いくらで評価するのかと言えば、回収できる金額です。通常のケースでは1億円でしょう。法人として活動もし、少しずつでも返済の可能性があれば、貸付金として1億円で評価されても仕方ありません。しかし、実質的にはあまり機能せず、休眠状態の会社も多いはず。
そんな時は若干の工夫も可能です。


2.回収できなければ、評価はゼロ!

 回収ができると想定されるから、1億円の評価になるのです。回収できない状態ならば、当然に評価はゼロ。早い話、相続後に貸付金を回収できない状態にしてしまえばよいのです。
一つの手法は、会社の解散。ただ、会社は解散だけで法律的に終了はできません。解散の後、会社財産を総てきれいな形で清算し、利益があれば清算所得の課税。そして株主へ出資額を超える残余財産の分配があれば、配当所得の課税です。


3.税務署も財産なければ追求無し!

 話は元に戻ります。会社側から見ると、オーナーに対する借入れが1億円あるのですが、借金だけがある状態では債務超過。実は債務超過の場合、特別清算と言って通常の方法より面倒な手続きが必要なのです。 
そこで、実務的には清算をせず、解散の状態に留めておきます。具体的には、解散年度の法人税の申告書を税務署に提出。これで、税務署に対してはこの会社が今後、機能しないことは解ってもらえます。その上で貸付金については、解散と言う事由が回収できない事の補強となるため、評価はゼロとできるのです。
税務署は会社に財産が残っている状況で、解散だけしても放っておいてはくれません。前述の清算所得で課税できるチャンスがあるからです。しかし、債務超過の会社なら、旨みはないので、清算までしなくても、それ以上の追求がないのが実態です。
また、解散時に会社に借入金額に相当する赤字があれば、話はもっと簡単です。会社に対し、債権放棄をするのです。会社は債務を免除されたため、贈与されたものとして課税されますが、赤字でその分を補填し課税無し。
いずれにせよ、この様な手続きをしなければ、原則に戻って1億円で貸付金を計上です。


4.会社に土地が残っていたら…

 こんな事案がありました。亡くなったご主人が生前作った会社が有り、その株式を相続財産として評価です。この会社、大分前から実質的には休眠で、何年にも亘って申告すらしていない有様でした。通常ならば無視してもいいのですが、面倒なことに若干(評価額にして1億5千万円)の土地が残っていたのです。 株価評価の方法に、純資産価額方式と言って、プラスマイナス両財産の差し引き計算で算出する方法があります。この方法による場合、土地の時価を反映した株価となってしまいます。また、従前の申告状況も不明で、欠損金があるや否やも解らず、 な方法は採れません。そこで、この土地の評価額相当の死亡退職金を支給することにしたのです。これにより、この会社のプラスの財産は土地の1億5千万円、一方、マイナスの財産は未払いの退職金1億5千万円。つまり、差し引き株価の評価はゼロ円とする事ができるのです。
 因みに、原則的には申告済みの最終期の決算書を基に算出します。しかし、相続後に独自に決算を組むことも可能で、今回は申告もないため、この方法による申告です。基本的には相続準備は生前に、用意周到にお進め頂くに越したことはありません。が、相続後でも、あれやこれや、工夫をすれば何とかいい知恵もでてくるものです。

※執筆時点の法令に基づいております