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COLUMN

TOPATO通信相続税増税の行方 5172号

ATO通信

5172号

2006年9月29日

阿藤 芳明

相続税増税の行方

 毎年12月になると翌年度の税制改正の内容が公表され話題になりますが、今年は早々と増税論議が喧しい様相を呈しています。中でも消費税と相続税はあたかも増税は既定の路線のようで、一体どんな形での増税になるのでしょうか。まだ時間のある消費税はさておき、今回は相続税に注目し、どんな形の増税になるのかを探ってみました。


1.相続税課税の現状と増税の方向性

  相続税の対象となる方は、現状では概ね亡くなった方100人に5人の割合と言われています。つまり大半の95人は相続税の対象となっていないことになる訳です。極々限られた一部の富裕層のみが対象のため、増税の方向性としては、課税対象人員を増やし、今の5人を10人にも20人にもしていこうと言うものなのです。
 それでは現時点で既に相続税の対象となっている方には増税の影響はないのでしょうか。結論から言えば、影響は必至です。単に課税対象の裾野が広がるばかりではなく、相続税の負担は確実に重いものになりそうです。例えば下記のような…


2.基礎控除の減額

 相続税を計算する場合、基礎控除と言われるものがあります。ご存じのように、5,000万円に法定相続人一人当たり1,000万円を加算した金額です。例えば夫婦に子供二人がいる場合、夫の相続に際しては8,000万円になる計算です。課税の裾野を広げるには、まずこの基礎控除を減額することが考えられます。
 上記の例では財産が8,000万円までなら相続税の課税はありませんが、例えば基礎控除を2,000万円に法定相続人一人当たり500万円に変更したらどうでしょう。相続人の数が同じでも、3,500万円を超える方に課税となります。現状の金額は確かに今となっては大判振る舞いの感もあり、引き下げは最もてっとり早い増税策なのです。 


3.税率の引き上げ

 次に想定されるのは税率の引き上げです。かつては最高税率も70%だったのですが、現在は50%に引き下げられています。つまり、最高でも”五公五民”の状態です。税率自体に関して言えば、他の税目をみても現在は50%を超えるものはありませんので、かつてのような高い税率に戻る事はないような気はします。ただ、税率そのものを上げるのではなく、適用税率の金額区分を変更することによる増税はあるかも知れません。


4.小規模宅地の評価減の特例

  相続税の計算をする場合、最も重要な特例の一つに‘小規模宅地の評価減の特例’があります。
  居住用や事業用の敷地等について、適用のための条件や面積の制限はありますが、最大80%の評価の減額を行うものです。
  例えば被相続人がお住まいだった土地を、配偶者が相続した場合で、原則的なその土地の相続税評価額が1億円だったとしましょう。240㎡までなら80%引きとなるため、実際には20%相当の2,000万円の評価になってしまうのです。
  制度としては以前からあるのですが、バブルで土地価格が高騰した際、減額割合が引き上げられた経緯があります。昨今、一部の場所ではバブルの再来を思わせる値上がりはありますが、全体的には地価は安定と見ていいでしょう。そのような状況下では、バブル時期と同様に最大で80%引きの評価の減額は不要という議論は以前からあるのです。この減額割合をホンの少し変更しただけで、たちまち相続税の負担は増大します。一等地の土地を持っておられる方ほどその影響は甚大でしょう。従来は10億円が8割引きの恩恵で2億円の評価で済んでいたのに、もし最大で2割引となったら逆にいきなり8億円に評価が上がるのですから。個人的には、減額割合の引き下げは最も可能性が高いものと思っています。


5.裾野拡大の影響

 上記はホンの一例ですが、これらの施策により課税対象が広がり、従来は相続税とは無縁の方々も申告の義務が生じることになるでしょう。問題は単に裾野が広がるばかりではなく、基礎控除の引き下げ、税率の変更、小規模宅地の評価減額の割合変更、これらどの改正が行われても、従来よりも確実に増税になると言うことです。つまり、今まで相続税がかからなかった人に相続税が課税され、今でも課税になる人は、更なる負担が生じることになるわけです。
  我が税理士業界はどうでしょう。今までお客様になり得なかった方々も新たにお客様になるわけで、結果は業務の拡大です。大きな声で特にお客様には言えませんが、有り難い話です。人様が亡くなる事に起因する相続の増税を有り難がるなど不謹慎ではありますが、筆者のせいではないと思いつつ、ひたすら、合掌。

※執筆時点の法令に基づいております