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COLUMN

TOPATO通信相続財産の分割方法、基本的な考え方 5219号

ATO通信

5219号

2010年8月31日

阿藤 芳明

相続財産の分割方法、基本的な考え方

 『先生、一番良い分割方法を教えて下さい!』相続財産をどう分けるかについて、お客様からよく頂くご質問です。結論から言えば、全員が合意でき、かつ納税までできる分け方が一番良い方法なのです。ただそう言ってしまうと不親切だとお叱りを受けるので、以下基本的な考え方をお話してみたいと思います。


1.相続人であるお客様の心理

 お客様から見れば、我々は仕事上多くの相続案件に携わり、経験も豊富だからノウハウも当然あるだろう。このケースなら分割はこうすればベスト、そんな回答が得られるとお考えになるのかもしれません。確かに我々は年間にナン十件もの相続事案をお手伝いするのに較べ、一般の方が相続を経験する回数は普通はご両親の2回、慣れている方は限られているでしょう。ただ、財産の分割方法に模範解答など存在しません。


2.最低限、兄弟の共有は避ける!

 最も基本的なことから申し上げれば、兄弟での共有は避けるべきだと言う事です。共有は一見公平で平等な分け方に思われるかもしれません。しかし、例えば賃貸マンションを共有にした場合、大規模な修繕や売却、建て替え等にあたっては、全員の合意が必要なのです。意見の相違があった場合、それが基でトラブルにも発展しかねません。
 また、その後に兄弟の一方に相続が起きた場合、相続人である子が甥や姪として叔父、叔母との共有状態。そんな展開は避けるべきなのではないでしょうか。但し、兄弟の共有でも相続直後に売却・処分を考えている場合は共有も一つの選択肢です。また、親子間なら共有も問題は少ないでしょう。


3.相続をさせる側も毅然たる態度で!

 相続をさせる側にも上記の事はしっかりと認識をして頂きたい事なのです。子供達はみんな仲良く平等に、と言う考え方は私に言わせれば幻想に過ぎません。どんなに仲の良い兄弟でも、それぞれの家庭があり、それぞれの事情を抱えていて将来の状況までは分からないのですから。
 遺言書を作成しないまでも、子供達にその旨をはっきり伝えておく事も必要です。相続が現実になったとき、相続人の方から兄弟での共有が父の考えでしたから、と言うケースがままあります。厳しい選択ですが、毅然たる態度ではっきりさせておく事が相続させる側の責務なのではないでしょうか。  


4.共有を避ける具体策

 それでは共有を避ける方法としてどんな事が考えられるのでしょう。例えば下図の様な100坪の土地Aだけが唯一の財産の場合です。分割に際し甲地と乙地の二区分に分筆の上、二人が別々に相続するのです。相続財産は利用単位ごとに評価をするのが原則ですが、これを二つに分け、異なる相続人が相続すれば、甲地と乙地を別々に評価する事になります。本来は二方向の道路に面しているため、全体が㎡当たり75万円の高い路線価の影響を受けるはずが、これにより75万円の効果は乙地だけに。結果、評価額は減少し節税にも繋がります。生前に分筆しておけば安心でしょうが、相続後の分割の際に行っても認められる方法です。


5.代償分割の活用

 代償分割と言われる方法も有用です。土地Aは相続人Xが単独で相続します。その代わりにXはYに対し、自己の預金から又は借り入れをして「1億円を支払う」旨を分割協議書にはっきりと謳っておくのです。申告に際してXは土地の価額から1億円を代償債務として控除した金額が課税の対象。他方Yは本来の相続財産ではありませんが、受領する1億円が代償債権として課税の対象となる訳です。この方法を代償分割と言います。


6.弁護士を立ててはいけない!

 分割でどんなにもめたとしても、極力弁護士を立てないで解決をすべきです。弁護士の方からお叱りを受けそうですが、一方が弁護士を立てれば他方もそれに応じて弁護士を擁立。結果、弁護士同士の話し合いになる訳です。双方の弁護士はそれぞれの依頼者のために働くわけで、1円でも多く相続できるように頑張ってくれるでしょう。それが依頼者のためですし、成功報酬もそれによって決まってくる訳ですから当然です。彼らは円満に話し合う事が目的ではないため、事態は泥沼にはまり込むだけなのです。


7.全員に100%の満足は無い

 結局は欲をかかず、ほどほどを以って良しとして頂く事以外にありません。全員が100%の満足などありえず、分割協議とは妥協の産物。『分かち合えば愛、奪い合えば憎しみ』なのですから。

※執筆時点の法令に基づいております