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TOPATO通信こんな複雑な税法に誰がした! 5255号

ATO通信

5255号

2013年8月30日

阿藤 芳明

こんな複雑な税法に誰がした!

 税法と言う法律、所得税も法人税も基本的にはそれぞれに個別の思想や背景があり、それに基づいて規定が作られています。しかし、中には他の税目の規定をそのまま利用して法律にしてしまうこともあるのです。その場合、当然ですが両方の法律と規定をよく理解していないと、思わぬ落とし穴にはまることもあるようで…。


1.借用概念、借用規定

 例えば、簡単な例をあげれば、相続税法と言う法律の中で、建物の評価についてです。相続財産の評価については、国税庁が『財産評価基本通達』と言うマニュアルを用意し、これに基づいて計算するのが一般的な実務です。その中で、建物については、相続税法独自の評価方法を定めてはいないのです。結論を言えば、固定資産税の評価額を基本とし、それを自分だけで使用しているか、他人に賃貸借の形で利用させているか、で評価に差を付けているに過ぎません。基本的には固定資産税の評価の考え方に頼っているのです。
 他にも、取引相場のない中小企業等の会社の株式評価を行うに当たり、”同族株主”の考え方は法人税法の規定を借用したりと色々です。


2. 贈与税の住宅資金贈与にも非課税規定

 さて、贈与税には父母又は祖父母から、子又は孫へ住宅資金の贈与をした場合、非課税の特例が用意されています。その限度額は一定の省エネ耐震住宅なら24年中で1,500万円、25年中は1,200万円、26年の贈与なら1,000万円です。上記以外の住宅でも、24年、25年、26年でそれぞれ、1,000万円、700万円、500万円までの金額なら、贈与税の課税はありません。厳密に言うと、この金額に加えて、暦に基く1年を単位として計算する通常の贈与の場合には、110万円の基礎控除が用意されています。そのため、上記それぞれの金額+110万円までの贈与が非課税となる訳です。
 さて、この規定、そもそもの趣旨は、財産を持っている高齢者から、無税で資金を若い世代へシフトさせ、住宅取得を通じて経済を活性化させる事がその狙いです。贈与を受ける側の若い子や孫世代は、一般論としてはお金を持っていないため、住宅取得に際してこのような贈与を受けられれば、有り難いことこの上ないはずです。
 しかし、これらの若年層が総てお金を持っていない訳ではありません。職業や職種によっては、若くても贈与を受けずに十分資金的な余裕がある方もいるのです。そう言う方に対する税務職員のひがみもあるのか、所得を2,000万円で線引きし、それを超える場合には、この贈与税の非課税規定は使わせない、との厳しい態度で臨んでいます。
 話はもともと贈与なのですが、その中に所得税法に規定する”所得金額”の考え方を持ち込んでいるのです。実はそれが右記のような、悲惨なケースを生み出してしまったのですが…。


3.所得税法2条1項30号の合計所得金額

 上記で所得2,000万円と簡単に書きましたが、税法はこの辺のところが実に厳密、巧妙、複雑にできているのです。一般の世の中では収入も所得も区別はしていないのですが、同じ所得でも所得税の世界では、総所得金額、合計所得金額、課税所得金額等々それはそれは大変な峻別を設けています。で、問題は住宅資金の贈与が所得税法2条1項30号の『合計所得金額』と言う考え方で、この規定での所得金額が2,000万円を超えるか否かで天国と地獄の分かれ道になるのです。


4.具体的な事例

 上記の非課税での贈与を申告した方から、申告後に御相談を受けたのです。どんな事例かと言うと、所得税の申告を依頼した税理士に、この贈与の申告も依頼したそうです。因みにATOではありません。所得金額が2,000万円以下である事が条件であることは教えてくれたそうですが、その税理士も詳細は詳しくないので、業務としては引き受けなかったとか。そこで、そのお客様はご自身で必要書類を調べた上で贈与税を申告。その結果、税務署から指摘があり、合計所得が2,000万円を超えているので、贈与税は非課税にならず、約470万円の税額の修正申告を求められ、ATOに何とか助けてくれと言うのです。


5.合計所得金額とは

 実は、このお客様、申告書を拝見すると確かに給与所得の金額は1,600万円なので2,000万円以下。適用がありそうなのです。が、他に源泉徴収口座での株式の売却益600万円があり、前年の株の繰越損失800万円と通算して、今年分としては株式売買による所得はありません。しかし、この合計所得金額、株の繰越損失を利用するため申告してしまった場合には、売却益600万円を加算して判断する金額なのです。繰越損失との通算などとケチらずに、源泉分離のままにしておけば問題はなかったのです。結論として救済策はありません。こんな複雑な税法を作った国を怨むべきか、はたまたケチった事が悪かったのか…。それとも、税理士のために税法をわざわざ難解にでもしてあるのでしょうか?

※執筆時点の法令に基づいております