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COLUMN

TOPATO通信相続税における建物評価に警告? 5260号

ATO通信

5260号

2014年1月31日

阿藤 芳明

相続税における建物評価に警告?

 相続税においては、建物の評価について独自の基準はなく、固定資産税の評価を借用しています。相続時に個別の評価は事実上困難だからなのか、固定資産税の評価が適正ではないと分かっていながら、割り切りでそれに頼るしかないのだと思います。が、相続の直前に増改築を行うと、話はちょっと違ってきます。国税庁がご丁寧にもHPを使ってこんな警告を発しているのです。


1.固定資産税の賦課期日

 ご存じのとおり、固定資産税はこちらが申告をしなくても、市町村が勝手に評価額を決めて課税してきます。この手の方法を賦課課税方式と言いますが、毎年1月1日現在の所有者に、その時点での状況で課税をすることになっています。
 従って、建物については、相続時に付されているその年の固定資産税の評価額で計算を行うことになります。確かに原則的な考え方はこれでいいのですが、問題は必ずしも固定資産税の評価額では解決しない例もある事なのです。それが、建物の増改築を行った場合に、固定資産税の評価額に反映されていないケースです。


2.税務署が行う照会

 ある相続税の税務調査でのことです。相続開始の6ケ月前に、およそ1,700万円を掛けて自宅の改装を行っていた事案です。その改装の内容は、システムキッチンに1,200万円、台所の床工事に200万円、居間のフローリングと床暖房で300万円と言うものです。
 そもそも何故こんな工事を行ったことが税務署に分かるかと言えば、普通預金の動きを税務署は事前に精査しているためです。このことは今回のテーマではないので、少しだけ触れておくに留めます。相続税の申告書を提出すると、その申告書から分かる範囲内の総ての金融機関に照会文書を発送するのです。残高は勿論のこと、普通預金の動きを職権で5~10年程度に遡って復元させています。それも被相続人だけではなく、相続人やその他申告書から分かる関係者総てについてなのです。
 その照会文書の回答を検討し、不審な預金の動きがあれば、解明するために実際の調査に着手。調査に来た時点で、古い預金通帳を隠しても破棄しても、内容は先刻ご承知なのです。勿論、そんなことはおくびにも出さず、通帳の提示を求め、初めて支出の事実を知った”振り”をしてこれは何ですか、と質問するのですが…。


3.税務署の指摘と固定資産評価基準

 話は税務調査に戻ります。『相続直前に1,700万円もかけて自宅を改装している。支出額そのものとは言わないまでも、相応の価値の増加があるはずだ。その分の財産の計上がないのはおかしい。』と言う指摘をされたのです。
 しかし、1.でも述べたように建物についての相続税の評価は固定資産税の評価額です。その評価額は相続後2度も賦課期日を経て、なお改築前と変更がないのです。感情論としては税務署の指摘も理解はできます。が、固定資産評価基準と言う評価方法についてのマニュアルの中に、家屋の建築設備の評価上の取り扱いについて、次のような規定がなされているのです。『家屋の所有者が所有する電気設備、給水設備、空調設備…等々で家屋に取り付けられ、家屋と構造上一体となって、家屋の効用を高めるものについては、家屋に含めて評価する』と。家屋に含めて評価した結果、評価額に変更がないのだから1,700万円については価値の増加はないと考えられるのです。
 ただ、これで引き下がるほど税務署も甘くはありません。建物内部の改築なので固定資産税の係りが気付いていないだけだ、と主張。舞台は固定資産税の係りの判断に委ねられることになったのです。


4.固定資産税の評価を踏まえて

 果たして、固定資産税の担当者は、この手の改築は評価を変更する程のものではないとの回答。確かにシステムキッチンに関しては、金額的にも高額で資産価値の増大がない訳ではないのだろうと思いますが、考え方としては修繕費扱いだと言うのです。理論的には価値の増大は否定できないのでしょうが、実務としては、評価額の変更にまでは及ばないと言う考え方のようでした。


5.税務署の警告

 結果としては家屋の評価が変わらない以上、相続税への影響はありませんでした。しかし、こんな事案が多かったのか、先般11月1日付で国税庁のHPにこんなQ&Aが掲載されたのです。家屋の増改築後、評価額が改定されていないため、増改築にかかる状況を反映していない場合の取り扱いについてです。その回答は、減価償却を行った後の残額の70%相当額で計上すべきとのこと。実はこの考え方、以前からあったのですが、わざわざHPにまで掲載するのは警告と言うか脅かしと言うか…。相続直前の増改築は今後は要注意ですが、工事後どれ位の年月が経過していればいいのか、状況を反映していないとは具体的にはどんな事なのか、未だ不明点は山積しています。

※執筆時点の法令に基づいております