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TOPATO通信贈与ではなく給与で移そう! 5292号

ATO通信

5292号

2016年9月30日

阿藤 芳明

贈与ではなく給与で移そう!

 お金に色は付いていません。従って、相続の時に誰のお金だったのか、税務調査では常に問題にされるのです。いわゆる”名義預金”、”名義株”と言われるものがそれに当たります。真実が何処にあるのかは難しい問題なので、それを合法的にクリアーする新手法のご紹介です。


1.”生計一”の親族とは

 所得税法に”生計を一にする親族”と言う、一見分かったようで、実際にはその判断が非常に難しい用語があります。敢えて大胆に定義すれば、『同居をしていて、同じお財布で生活を営む親族』、とでも言うことができるでしょうか。キーワードは”同じお財布”であって、必ずしも物理的な同居が条件ではありません。単身赴任のお父さんが一家の生計を支えていれば、その奥様やお子さんは言うまでもなく生計を一にする親族です。そのお子さんが就職をし、自らマンションを借りて住んでいれば、仮に親に幾ばくかの仕送りをしていても、これはもうお財布は別々なので生計は別と言う判断なのです。


2.生計一の親族に給与を払うと…

 基本的に配偶者は、多少の収入があっても生計を一にする親族に該当します。別居でそれぞれに収入がある場合もあるでしょう。が、ここは説明の都合上、筆者夫婦の様な収入は夫だけ、妻は専業主婦である円満(?)夫婦を想定して下さい。
 不動産賃貸業又は小さなお店、例えばラーメン屋でも居酒屋でもいいでしょう。夫がそんな事業を営んでいて、妻がそれをたまに手伝っていたとします。個人事業なのでその利益に対しては、夫に所得税の課税が生じます。その夫が妻にお礼程度の気持ちで給与を払っていても、原則として払った給与は夫の経費にならず、逆に貰った妻も収入にはなりません。原則としてと言ったのは、青色申告の場合には、夫婦であっても専業主婦ではなく、実際に事業に専従する青色事業専従者となれば給与として認められるためです。勿論、この場合には貰った側は給与として課税されますが。ラーメン屋や居酒屋稼業で生計を立てていれば、利益の多寡と関係なく所得税の世界では立派な事業所得。青色事業専従者として給与の支払いが認められます。問題は不動産賃貸業で、専門的には”事業的規模”と言うのですが、一定規模以上でないと青色事業専従者として認められません。つまり、この場合には、白色申告ではなく青色であっても給与を経費とすることはできないのです。


3.給与を支払うと(貰うと)どうなるか?

 不動産賃貸業でもラーメン屋でも、とにかく例えば妻に給与を支払うとしましょう。先程、原則として青色事業専従者給与以外はその支給額が経費とならない代わりに、貰った側も収入にならないと言いました。従って、その給与に源泉税も住民税も掛りません。無税なのです。生活費その他の支出は総て夫のお金で賄えば、給与は総て妻が貯金する事も夢ではありません。例えば月に25万円の給与に夏冬にそれぞれ2ケ月分の賞与を支払ったらどうなるでしょう。年間に400万円の妻の貯金ができる計算です。10年で4,000万円、20年なら8,000万円もの金額が無税で妻の貯金形成です。ここで判断すべきは贈与との比較でしょう。年間110万円までは非課税ですが、400万円に係る贈与税は毎年約33万円。10年で335万円、20年で670万円にも上ります。一見、給与の方が良いことずくめの感もありますが、無税で妻に行った分は夫が所得税として総てかぶっているのです。あまり高額所得の方にはお勧めできない方法です。
 但し、この方法なら妻の預金が多額にできていても、名義預金の心配は全くありません。これを原資に株を買っていれば、名義株と言われることもありません。正々堂々と合法的に夫の財産を減らし、妻名義の預金形成ができるのです。


4.高額所得ならどうするか?

 それではこの手法、どんな場合に有利になるのでしょう。前述のように夫の所得税と妻の贈与税の比較になります。ただ、夫の所得については、法人化や信託で既に対策済みと言う方も多い事でしょう。例えば、土地も建物も個人所有である場合、所有型法人に建物を移しても土地は個人のまま。従って、個人は法人から地代を収受することになり、この部分は個人の不動産所得です。が、この中から妻や子へ給与を支払えばいいのです。これと低額の贈与を併せて行えば、それなりの金額を妻や子に移すことも可能です。ここでもう一度復習です。この給与は支払っても経費にならずに、貰っても収入にならないのです。つまり、決算書にも何処にもその履歴が残りません。従って、毎月本当に給与の額として定時同額を妻や子の口座に振り込んでいれば、給与として支払った事実は証明ができるのです。さて、問題は地代だけがその内容となる不動産所得の申告で、一体どれ程の金額の給与を支払うことができるのかでしょう。相続時にこれが判明しても、真実給与を支払うだけの実態があれば、名義預金だと言われる心配はありません。但し、その金額があまりに高額であれば、高額な部分は贈与となる可能性も。給与か贈与か総ては腕の良い税理士との相談です。

※執筆時点の法令に基づいております