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COLUMN

TOPATO通信売却前の一工夫 5302号

ATO通信

5302号

2017年7月31日

阿藤 芳明

売却前の一工夫

 東京オリンピックを3年後に控え、東京の町はあちらこちらで様々な工事が本格化しています。その一つに道路の拡張・整備に伴う収用が活発に行われているようです。そこで、もし収用の話が進んでいるなら、その前に是非検討をしておきたいことがあるのです。それは、相続時精算課税制度の活用です。


1.収用の場合の特別控除

 個人で所有する土地が収用された場合、税務上は様々な特例が用意されています。収用と言う国や自治体が進める政策に協力する訳で、だからこそ税務上も特典が与えられているのです。その一つは5,000万円の特別控除で、譲渡益(売却益)からこの金額が控除され、控除後の金額に譲渡税率を乗じたものが税額となります。
 なおこの5,000万円控除を適用しない場合には適用税率の優遇を受けられます。通常は保有期間5年超の長期保有の場合、住民税込みで約20%の税率なのですが、優良住宅地の譲渡の特例で更に数%軽減されることになるのです。


2.買換え資産を取得した場合の特例

 もう一つの選択肢として、代替資産を取得した場合の特例があります。一般に買換え特例と言われているもので、売却資産の価額以上の物件に買換えれば、その時点での課税はなしと言うものです。但し、あくまでも売却時点での課税がないだけで、税金が免除された訳ではありません。その新規に買換えた資産を売却する時まで、課税を繰り延べるだけのことです。売却時点での課税がないため、当面の資金繰りはラクになるでしょうが。
 ついでながら申し添えておくと、売却資産より安い物件を購入した場合、その差額については当然ながら買換えた時点で課税されることになります。


3.複数人で所有にして売るためには

 以上の説明からお分かり頂ける通り、実額の計算で必ず税負担で有利になるのは5,000万円控除です。買換えの場合、その買換え資産を売却する時の税率にもよりますが、基本的には課税を繰り延べただけなので、有利になることは少ないでしょう。
 そうだとすると、一つの物件を複数人で所有していれば、その人数分だけ5,000万円控除の恩典を受けられることになる訳です。では、その具体的な方法を考えてみましょう。
 現在一人で所有する物件の収用が見込まれる場合、これを複数人での所有にするには、その持ち分の一部を売却か贈与するしかありません。相続まで待つ方法もない訳ではありませんが、お元気な場合で考えればこの2つの方です。まず売却ですが、親族間で売買するからと言って時価1,000万円のものを200万円で売買すればその差額に贈与税がかかってしまいます。そもそも収用を受けるために複数人での所有にしようとしている訳です。それ以前に時価で売買しても通常の譲渡税が課されてしまい、意味はありません。となれば、残る方法は贈与ですが、素直に贈与をしても、1年ごとの計算期間で行う普通の贈与では、基礎控除額は僅かに110万円。土地の贈与ではかなりの負担になってしまいます。


4.相続時精算課税による贈与

 そこで考えられるのが”相続時精算課税制度”による贈与です。60歳以上の者から20歳以上の子又は孫へ贈与する場合、2,500万円までは贈与税が非課税。それを超える場合にも一律20%の贈与税で完結する制度です。但し、贈与をしたと言っても実際の相続時には財産の持ち戻し計算をして相続財産として課税される仕組みです。もちろん、既にこの制度による贈与税を納めている場合には、その贈与税は相続税から控除されます。従って、相続税の前払い的な贈与と言う事もできるでしょう。これなら例えば贈与を受ける方3人で7,500万円まで非課税です。そして、もともとの所有者を加えて4人で収用されれば、5,000万円控除が4人で2億円まで所得税・住民税がかからない事になる訳です。


5.居住用財産の売却にも応用できる!

 収用の5,000万円控除程の効果はないにせよ、複数人での所有は居住用財産を売却する時にも応用できます。居住用財産を売却する場合には3,000万円の特別控除が用意されています。これを複数で適用できるようにするのです。具体的には配偶者に対しては、婚姻期間20年以上で2,000万円の贈与が非課税となる贈与税の配偶者控除の適用です。夫婦の持ち分割合にもよりますが、合計で最大6,000万円までの売却益が生じても、非課税で売却できます。また、同居の子供がいるならば、事前に先程の相続時精算課税制度による2,500万円までの贈与税非課税枠活用の準備をしておきましょう。なお、特例を受けるためには、土地のみならず建物の持ち分贈与もしておくことが必須です。但し、注意すべきは譲渡直前の贈与の場合、贈与自体は有効でも、贈与税の配偶者控除も居住用の3,000万円の控除も受けられません。これらの特例を受けるためだけの目的で贈与を受けた家屋等には認められないので注意です。

※執筆時点の法令に基づいております