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  2015年6月
   

イヌ

     

 
 
   以下は犬族の会話である。
 
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 「諸君、動物界にあって我々犬族くらい、人類と親しくしてきた者はいない。しかし人類の使う言語を分析してみると、犬の出てくる言葉は、殆ど皆侮蔑と差別に満ちているように思える」「そーだ、そーだ」「議長、どこが侮蔑と差別なのか例を挙げていただきたい」

 「まず、会社のイヌとか権力のイヌという言葉がそうだ。イヌは上位に盲従するという偏見がある」「犬も歩けば棒に当たるって言葉もそうだ。イヌでも、というところが差別だ」「そーだ」「犬死に、なんて言葉もあるぞ。犬が死ぬのはまったく無意味だと人間は思っている」「夫婦けんかは犬も食わない」「あたりまえだ、そんなものが食べられるか」「犬に論語、猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏、みんな人間の動物に対する差別であるぞ」「犬の川端歩きという言葉を知っているか」「いや、聞いたことがない」「どんなに歩きまわっても収穫がないこと、あるいは金を持たずに店をひやかすことと人間の辞書に書いてある」「差別だ、偏見だ」「そーだ!」「人間の辞書には、犬の糞とは汚いもの、軽蔑すべきものの意味だとはっきり書いてある」「なんだ、人間の糞はきれいで尊敬すべきだというのか」

 「そういう訳で、人間は動物界で永年友好関係にある犬族を、心の中では、実は軽んじていることが判明した」「この際我ら犬族としては、人類との関係を見直すべきではないか」「そーだとも。彼らが軽んじる犬にもプライドがあることを示さなければならない」

 「では、具体的にはどのような行動をとったらよいか、これから話し合うことにしたい」

 「議長ちょっと待ってください」「なんだ」「人類とひと口で言うけれど、犬にとっても良い人間と悪い人間がいると思うのよ」「うん、うちの婆さんなんか私のことを人間の孫以上に可愛がってくれるし、私のことをちっとも軽蔑なんてしてないと思う」「でも、君はこのあいだ寒いときに人間の着物みたいなコートを着せられて散歩していたじゃないか」「それを人間の善意の押しつけと思わないのか」「あら、あのコートちょっとお洒落だったし暖かくてよかったのよ」「犬としての自覚とプライドはどこにあるんだ」「そーだ。犬はまず人間の着物を拒否すべし」「古い話だが、ディズニーとかいう米人がつくったワンワン物語では、首輪こそ由緒正しい犬の証で、首輪のないのは野良犬だと差別されている」「そーだ。首輪も拒否すべし」「起て!飢えたる犬よ、革命の日は近い!」「あら、私飢えてなんかいないわよ、ドッグフードでヘルシーに暮らしているし」「俺は、人間との友好関係を続けながら、人間側に辛抱強く、犬族の言い分を理解させていくのがよいと思う。いますぐ人類と対立状態に入るのは犬族にとっても不利だ」「そういうのを日和見主義と言うんだ」「待て、日和を見るのが何故悪いんだ」「悪いさ」「どうして」「ウー」「ワン」「キャン」「ガブ」

 「諸君、内輪もめで暴力はいけませんぞ」「ガルル」「静まれ」「グルル、ウー」

 「議長、当面の行動方針として、人間のつくった純粋犬種の標準を認めないというのはどうでしょうか」「それって何」「秋田犬の背の高さは何センチ以上とか言う基準です」「そんなの知らなかった」・・とかとか犬族の会話はまだ続くようだ。


 
     
 

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