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TOPえ〜っと通信相続税申告後、新たな財産の存在が判明!
~遺産分割のやり直しに潜む問題点とその予防策~
131号

え〜っと通信

131号

2012年3月15日

齋藤 美佐

相続税申告後、新たな財産の存在が判明!
~遺産分割のやり直しに潜む問題点とその予防策~

 父が亡くなって相続が発生。相続人である子供達で遺産分割協議をし、相続税の申告書を無事提出です。 納税も済ませ、ほっと一息ついたのも束の間、子供達の誰も知らない父の遺産が他にあることが明らかになりました。
 このような時、どうすればいいのでしょう。
 2つのケースに分けて、以下まとめてみました。


1.その遺産についてのみ、新たに遺産分割協議をするケース 

(1) 当初の遺産分割協議は有効
 遺産分割協議は相続人全員の合意により成立します。
 一旦その協議が調ったら、その効力は相続発生時に遡って生じることになります。
 上記のように、遺産分割協議後、新たに遺産が見つかった場合には、その遺産は未分割の財産であり、各相続人はその未分割の財産についてのみ、新たに遺産分割協議をすることになります。

(2) 新たに遺産分割協議をしなくてもすむために
 新たに遺産分割協議を行うためには、相続人が再度会して合意をする必要があり、手間がかかります。ましてや、各相続人が遠方に住んでいたり、お互いあまり仲がよくない場合は、なおさら負担に感じます。 当初作成する遺産分割協議書に、「今後、記載以外の遺産が発見されたときは、すべて相続人 ○○ が取得する」などと記載しておけば、原則として、新たに遺産分割協議を行う必要はありません。


2.当初の遺産分割協議をやり直しするケース

(1) 新たに遺産分割協議をしなくてもすむために
 新たに見つかった財産が高額だったり、相続財産全体のかなりの部分を占めるような場合はどうでしょうか。「この財産の存在が初めから分かっていたら、遺産分割協議書に合意なんてしなかった」と言い出す相続人もいるかもしれません。
 遺産分割も他の契約と同様、民法上の法律行為ですから、相続人全員の合意があれば、遺産分割のやり直しをすることもできます。
 しかしながら、税務上、遺産分割のやり直しは、次に掲げる問題が生じることになります。
(2) 贈与税、所得税の課税
 当初の遺産分割協議が無効とされない限り、各相続人は、遺産分割協議により取得した財産について所有権を有することになりますので、その後になされた遺産分割のやり直しによる再分配は、相続登記の有無に関係なく、税務上、各相続人間における財産の譲渡(無償の場合は贈与)として所得税または贈与税が課税され、思わぬ税負担が生じることにもなります。


3.修正申告及びペナルティ

 相続税の申告書の提出後、新たな財産が発見された場合には、前述のように遺産分割に係る種々の問題が生じるほか、当然のごとく相続税の修正申告が必要になります。修正申告となると追徴税額の納付が必要となるほか、遅延利息相当として延滞税の納付も必要となります。ましてや新たな財産の存在が税務調査で発覚したのであれば、さらに過少申告加算税の負担も生じることになります。


4.相続財産の把握漏れを防ぐために 

 遺産分割のやり直しによる税務上の問題を生じさせないために、相続財産の把握は的確に行う必要があります。
 主な相続財産についてみると、次のとおりです。
(1) 預貯金、有価証券
 預貯金、有価証券については、取引金融機関を確認し、残高証明書の発行を依頼します。借入金がある場合には、その残高証明書も入手します。
 また、名義預金(名義上は被相続人の名義ではなく、妻や子になってはいても、実質的に被相続人の財産と推定される預金を言います)についても注意が必要です。
 その性格上、実務では真実誰のものかの特定は非常に難しく、故に相続税の税務調査での重要な確認事項となります。したがって、税務署にうまく説明がつくように金額を特定し、被相続人からの贈与が成立するように(贈与と認定されたものは名義預金とはなりません)準備しておく必要があります。
(2) 生命保険契約・損害保険契約
 保険証券、保険料支払領収書、生命保険料控除証明書等から、加入保険の種類、内容を確認します。被相続人が被保険者となっているものは、保険会社に死亡保険金の請求を行います。また、保険事故が発生していない生命保険契約で、被相続人が保険料の全部または一部を支払っているものは、生命保険契約に関する権利として相続財産に含まれるので注意が必要です。この点は、いわゆる積立型の損害保険契約も同様です。
(3) 不動産
 不動産については、まず固定資産税の名寄帳を取寄せ、把握漏れがないかどうか確認した上で、全ての不動産の登記簿謄本を入手します。
 以上、相続財産の調査方法を整理してみましたが、被相続人の財産の所在自体が分からなければ調査の仕様もありません。出来れば、生前から被相続人ご自身、もしくは同居の相続人の方が、日頃から「財産リスト」などを作成し、相続財産の全体を明らかにしておくことが理想でしょう。

※執筆時点の法令に基づいております