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~実際にあった事例検証~
216号

え〜っと通信

216号

2019年4月15日

金井 悠深恵

奥様の預金は誰のもの?
~実際にあった事例検証~

 相続税の申告における預金残高が、生前の所得状況からみて大幅に少ないと、税務署は疑いの目を向けてくるようです。今回は、相続税の調査で実際に指摘された事例をご紹介します。


1.事例の概要

 被相続人A(夫)とその配偶者B(妻)は、会社は異なりますがいずれも取締役で、それぞれ役員報酬を得ていました。役員報酬の額は、AがBの約2倍であったこともあり、生活費はそのすべてをAが負担していました。そのため、B名義の預金口座に振り込まれたBの役員報酬は、ほとんど費消されていませんでした。このような状況でAに相続が発生しました。相続時のAの預金残高は約5,000万円、一方Bの預金残高は約2億円でした。相続税の申告は、Aの預金残高としてその5,000万円を計上しました。その後、税務調査があり、夫婦の預金残高を確認した調査官から次のような指摘を受けました。

・夫婦には、お互いを扶助する義務がある。
・民法では、夫婦の生活にかかる費用は、資産・収入など一切の事情を考慮して分担する必要があるとされているため(民法760条)、夫婦生活40年間の生活費約1億円のうち、2人の収入(AはBの2倍)に応じてその3分の1の3,300万円は、Bが負担すべき金額であった。
・従って、Aの相続財産にBに対する貸付金として3,300万円を追加して、修正申告をする必要がある。
 確かに、2人の収入状況から考えると、Bの預金は多すぎる印象がありますが、はたして調査官の指摘内容に応じて、修正申告をする必要はあるのでしょうか?


2.財産は誰のもの

 上記1に記載のとおり、夫婦は、婚姻生活から生ずる費用を分担することになりますが、その割合は、夫婦の話し合いで決めることかと思われます。収入に応じて負担することも、また、一方がすべての生活費を負担することも可能なのではないでしょうか。
 次に、夫婦それぞれの財産の考え方についてですが、
(1)夫が婚姻前から所有している財産
(2)夫が婚姻中に夫の名前で取得した財産(給料や親から相続した財産など)
 これらは、夫の特有財産(夫が単独で所有する財産)となります(民法762条)。
 先の事例で言いますと、A、Bそれぞれが得た役員報酬は、それぞれの特有財産となります。


3.離婚する場合の考え方

 夫婦が離婚する場合は、一方が、相手方に対して財産の分与を請求することができます。これを財産分与といいます。この財産分与は、
(1)婚姻中に夫婦が協力して蓄積した財産の清算
(2)離婚後に、生活に困窮する配偶者に対する扶養料
という性格があります。このことから、もしAとBが離婚をするのであれば、AはBに対し、預金残高の2億円の一定割合を請求できるのではないでしょうか。


4.修正申告は必要なのか

 夫婦の生活費は、先にご説明した通り、夫婦の話し合いによって負担すべきものです。例えBに収入があっても、Aがすべての生活費を負担すること自体、何ら問題はありません。Bの預金残高は、役員報酬として会社からBの口座に振り込まれた金額の積み重ねであり、正しくBの特有財産です。従って、Aの相続税の申告において、Bの預金残高の一部をAの財産と捉えて修正申告をする必要はないと考えます。
 なお、離婚をする場合には、上記3に記載の通り、A、Bそれぞれの特有財産は、夫婦が協力して築いた財産として、AはBに財産分与を請求できます。一見、相続の場合と矛盾が生じるように感じられます。しかし、例えば妻が専業主婦で所得がない場合、夫の財産をその特有財産とすると、家事や育児により収入がない妻には、自己の特有財産がないという不公平が生じます。離婚の場合は、夫の財産を妻に分与することで、この不公平を解消します。相続の場合でも、配偶者の相続権として、夫の特有財産の2分の1を妻は取得できます。
 先ほどの事例では、Bが先に亡くなれば、AはBの預金を相続で取得することができることになります。


5.相続税申告は特有財産で!

 今回のケースは、夫婦の所得状況と預金残高が大きくバランスを欠いていたため問題となりました。それぞれの特有財産であることを立証するためには、例えば預金は会社(第三者)から振り込まれたお給料という、紐付きの資産であることが必要です。途中で混ざり合ってしまうと、特有財産であると立証ができなくなってしまいます。上記の事例を踏まえ、ご相続対策として、一度、財産の見直しをされてみてはいかがでしょうか。

※執筆時点の法令に基づいております