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~相続した株式の注意点・うっかりミス~
227号

え〜っと通信

227号

2020年3月13日

田中 奈美

有価証券売却時の注意点
~相続した株式の注意点・うっかりミス~

 現在、上場株式等の取引については特定口座での売買が一般的になってきました。しかし、特定口座に移管されず、一般口座に残ったままの上場株式等をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、特定口座・一般口座にある相続した上場株式等を譲渡した場合の注意点、うっかりミスなどについてご紹介致します。


1.一般口座と特定口座の違い

 株取引を行う口座は、特定口座と一般口座に分けられます。特定口座は、年間の譲渡損益の計算を証券会社などが行ってくれます。税金計算の有無により、「源泉税徴収あり」と「源泉税徴収なし」に分かれます。「源泉税徴収あり」を選択すると、証券会社などが取引の都度税金を精算してくれる仕組みになっているため、原則として確定申告は不要です。
 一方、一般口座で株取引を行っている場合には、証券会社などから送られてくる取引報告書により自分で取引毎の譲渡損益を計算し、それらをまとめて年間の譲渡損益を算定し、確定申告をする必要があります。


2.相続で取得した株式を譲渡した場合

 相続で取得した株式を譲渡した場合は、被相続人の取得費を引き継ぎます。相続の名義書換時にご自身の特定口座(源泉税徴収あり)への移管が行われていれば、証券会社などで譲渡損益や税金計算を行ってくれます。通常はこの段階で、特に確定申告の必要はありません。しかし、相続税の申告期限から3年以内に相続財産を譲渡した場合は、相続税の一部を取得費に加算する申告が可能になります。多額の相続税を支払っている方は、相続税の一部を加算することによってかなり譲渡益が圧縮され、譲渡所得税等が安くなります。現在、相続税の最高税率は55%なので、なかには譲渡益以上の取得費加算額が算出されるケースも出てきます。しかし取得費に加算が可能なのは、あくまでも個別銘柄毎の譲渡益の範囲内になりますのでご注意下さい。


3.相続発生から数年経つと・・・

 相続発生年や、相続税納付のために株式を譲渡した年は、上記の取得費の加算を忘れずに確定申告します。しかし、相続税申告期限から2年くらい経った頃に、株式相場が高騰したので相続した株式を譲渡する場合もあると思います。その時に、特定口座(源泉税徴収あり)に入れているから、譲渡損益も税金計算もしてくれているので、確定申告は不要であると勘違いしてしまうケースが出てきます。意外とうっかり忘れてしまうことがあるのです。


4.確定申告を忘れると・・・

 確定申告でこの相続した株式の譲渡所得そのものの申告を不要と考え申告しなかった場合に、確定申告のやり直し(=更正の請求)は出来るのでしょうか。答えは当初申告で株式の譲渡所得の申告不要制度を選択したものとみなされ、更正の請求による「取得費加算の特例」の適用が認められなくなります。申告そのものを忘れたために、取得費加算が適用できず、税金還付が出来なくなってしまいます。うっかりミスは意外と大きな痛手になることもあります。


5.同一銘柄を持っている場合

 話は少し変わりますが、A株式について相続したものと自分で購入したものとをお持ちの方もいらっしゃると思います。このように相続等により取得した株式と相続前より保有する株式が混ざっている場合で、A株式の一部を譲渡したときに、譲渡益はどのように計算されるでしょうか。
 この場合、相続税の取得費加算の適用においては、相続等により取得した株式から優先的に譲渡したものとして、取り扱うことが認められています。


6.一般口座の場合

 一般口座分の譲渡損益を確定申告するときになって取引報告書をみると、なんと「取得費」の記載がないことがあります。特に、相続で引き継いだ株式は自分で購入したものでないので、取得時の資料も不明のことが多いものです。取得費が不明の場合は、譲渡金額の5%をみなし取得費として申告が可能となっていますが、たったの5%。なんとも釈然としません。


7.取得費が不明の場合

 そこで、取得費を算定する方法として以下3つの方法が認められています。
(1)顧客勘定元帳で確認(原則10年以内の購入取引のみ)
(2)本人の手控え(日記帳や預金通帳などの手控えによって取得価額がわかれば、その額)
(3)上記(1)・(2)で確認できない場合は名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定


8.名義書換日を調べるには

 名義書換日を調べるには、発行会社の株式異動証明書等の資料を手掛かりに株式の取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得費を確認することが出来ます。通常、発行会社は証券代行会社に名義書換業務を委託していることが多いので、委託証券代行会社へ発行を依頼します。
 上記3つの方法で取得費を確認し、取得時期によっては譲渡損が発生することもあるかもしれません。ぜひ、諦めずに資料請求等をして取得費を確認することをお奨めいたします。
 以上、特定口座・一般口座それぞれの特徴による注意点などをご紹介いたしました。確定申告で今一度冷静に何が適用できるかお確かめ下さい。

※執筆時点の法令に基づいております