お役立ち情報

COLUMN

TOPえ〜っと通信相続税の調査について 256号

え〜っと通信

256号

2022年8月15日

小松 進

相続税の調査について

私は、30年間税務署に勤め、主に資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)を担当していました。
 税務署に勤めていたときの話をお伝えしたいのですが、如何せん公務員に課される守秘義務は退職後も免除されません。今回は守秘義務に抵触しない範囲で相続税調査のことをお伝えします。


1.相続税調査が行われる時期

 税務署は、1年のサイクルが7月から6月までとなっており、7月の定期人事異動で職員の約3分の1が別の税務署などに異動します。
 相続税調査は、7月の定期人事異動後から開始され、2月の確定申告前までに終了するように行われるのが通常です。調査期間は、数カ月に及ぶことも珍しくありません。調査があるのは、相続税申告書を提出して(申告義務があっても無申告)から1年又は2年後が多いようです。


2.査察調査と相続税調査の違い

 税務調査といえば、テレビや映画で見るたくさんの調査官が一斉にやってくる査察調査を想像する方が多いと思います。査察調査は、悪質な脱税者に対して裁判所の許可状をとって行われる強制調査です。東京国税局査察部が令和3年までの5年間に相続税で告発をした件数はありません。相続税は、親族のお金が混じっていることや名義財産を勘違いで申告していないことも多く、悪質な脱税とは言いきれないことが査察調査の少ない理由の一つだと思います。
 相続税調査は、税務署が内部の資料情報からみて申告額が少ないと想定した方に対して実施しています。基本的には、事前連絡による日程調整がなされた上で行われることになります。令和2事務年度の東京国税局管内の相続税調査では、申告漏れが見つかった割合が88%、1件当たりの追徴税額が1,286万円となっています。


3.相続税調査が入りやすい7つのケース

  税務署は、過去の申告情報を持っており、銀行調査ができるので、被相続人だけではなく相続人のお金の動きも把握するようです。調査に入りやすい7つのケースと税務署の狙いをご紹介します。
・ケース1:経常収入からみて申告財産が少ない。
給与や賃貸収入などの経常収入の入金口座とそのお金の流れからみて、申告した以外の相続財産がないか。
・ケース2:借入金、譲渡代金に見合う申告財産がない。
借入金、過去に高額な譲渡所得の申告のある方は、そのお金がどんな財産に形を変えたのか。
・ケース3:過去の相続税申告に見合う申告財産がない。
過去に相続した財産は、どんな財産に形を変えたのか。
・ケース4:親族間の資金移動が多くある。
親族間でのお金の貸し借りなどにより、相続財産として申告しなければならない貸付金や預け金がないか。
・ケース5:親族名義の多額の預貯金や株がある。
親族名義ではあるが、実際には被相続人が自身の収入で貯蓄し管理運用していた名義財産ではないか。
・ケース6:多額の現金出金・相続直前の現金出金がある。
使い道の分からない現金がタンス預金などになっており、申告した以外の手許現金があるのではないか。
・ケース7:申告書の不備がある。
計算誤り、添付書類不足、土地建物や株式等の財産評価誤り、小規模宅地等の特例適用誤りがないか。


4.申告誤り・申告漏れのペナルティ

 相続税調査で指摘を受け、相続財産の評価誤りや申告漏れを修正申告すると、申告誤り分の相続税に加え、正しく申告していれば払う必要のない利息的な延滞税と加算税を上乗せして払うことになります。
 その中でも、故意に相続財産を隠して申告しなかったと税務署に判断された場合は、最も重い重加算税となり、その行為者は修正申告税額の35%を上乗せして払わなければなりません。
 特に注意すべきことは、重加算税の行為者が配偶者の場合は、一定金額まで無税となる配偶者の税額軽減が受けられなくなることです。


5.まとめ

 相続税調査は、いったん申告誤りなどの指摘を受ければ想定外の出費が生じてしまう恐れがあり、誰もが受けたくありません。
 そのためには、(1)事前に被相続人の財産を家族ができる限り把握しておくこと、(2)入院や老人ホーム入所などにより、被相続人の財産を相続人が管理する場合は、概ね使ったお金を記録しておくこと、(3)相続税申告は、財産評価や特例適用をはじめ多くの専門的な知識が必要となりますので、相続税申告の得意な税理士に依頼することをお勧めします。

※執筆時点の法令に基づいております