お役立ち情報

COLUMN

TOPえ〜っと通信相続開始時、家屋に固定資産税評価額がなかったら 86号

え〜っと通信

86号

2008年7月15日

二見 和美

相続開始時、家屋に固定資産税評価額がなかったら

 相続税の課税価格を計算する際に、自宅やアパートなどの家屋は、原則としてその家屋の固定資産税評価額に評価倍率1.0倍を乗じて計算した金額により評価することとされています。つまり、固定資産税評価額がそのまま家屋の評価額となります。さらに、アパートなどの貸家は、その家屋の評価額から、貸家の評価の定めによって、借家権割合30%に賃貸割合を考慮した割合を控除します。明快な評価方法です。
 ところが、家屋が新築や増改築によるもので、固定資産税評価額が付いていない又は変更されていないとなると、少し面倒な事態が生じます。


1. 固定資産税評価額がないと・・・

 例えば、1月に新築完成したばかりの自宅。残念なことに2月に相続が発生してしまい、その相続税の申告期限は12月です。家屋の固定資産税評価額は、相続開始の時点では付いていません。
 こうした場合、国税庁が公表する財産評価基準書では、同様な状態での増改築等の場合の評価額の算定方法が明示されています。新築の場合もこの方法を用いることには、合理性が認められるでしょう。
 その内容は、優先順位として、①相続税の申告期限までに固定資産税評価額が付いた場合には、その固定資産税評価額、②その家屋の付近にある状況の類似した家屋の固定資産税評価額を基として、その付近家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額、③状況の類似した付近家屋がない場合には、その家屋の再建築価額から経過年数に応ずる償却費相当額(定率法)を控除した価額の70%に相当する金額、となっています。


2.いつ付されるのかはわからない

 ご存じのように、固定資産税評価額は、実際の購入代金や建築工事費ではなく、所定の固定資産評価基準による再建築価格等をもとに評価された金額です。新築の家屋については随時、市区町村(東京23区は都税事務所)がこれを決めていきますが、いつ決定されて台帳に登録されるのか、その実態はわかりません。
固定資産税評価額は、固定資産税だけでなく、不動産取得税の計算の基にもなるものです。相続税の申告期限まで10ヶ月ですから、その間に固定資産税評価額が付いてもよさそうなものですが、そうした個別の事情に対応してくれる窓口はありません。ただじっと付されるのを待つのみです。
 また、現実問題として、付近にそう都合良く同じような建物があるはずもありません。
 そうなると、③の方法により相続税の申告の準備を行うしかありません。つまり、建築工事費の70%です。これでは、一般的に言われている新築家屋の固定資産税評価額より高くなるケースがほとんどで、高い相続税額となってしまいます。
 もし、③で申告をして相続税の申告期限後に固定資産税評価額が明らかになったら、申告のやり直しはできないのでしょうか。原則論からいえば、③は国税庁が公表している方法であり、本人が選択したものでその評価額計算に誤りがあるわけではないため、本来の更正の請求の理由には該当しません。このように、タイミング次第で、申告実務上は頭の痛い問題が発生します。


3. 新築分譲マンションでは固定資産税評価額が付されている場合も

 販売契約上の完成引き渡しは1月、という新築分譲マンションを取得してすぐの2月に相続が発生した事例がありました。同じマンション内で複数戸を取得しており、建物の購入金額の合計額は2億3,000万円でした。ところがこのケースでは、マンション販売会社が建物引渡しの前年10月の段階で新築の建物表題登記をしており、建物自体には平成19年新築として平成20年度の固定資産税評価額7,600万円が付いていました。もし、固定資産税評価額が付かないようなタイミングであったら、多額な相続税額になるところでした。


4.評価明細書の取得のためには

 固定資産税評価額を確認するための家屋の評価証明書は、その年1月1日現在の所有者(今回のケースでは販売会社)による固定資産課税台帳をもとにしており、原則としてその所有者の申請によらなければ発行されません。しかし、今回のケースでは、次のような取扱いを受けることができます。
 都税事務所では、既に固定資産課税台帳に登録されている家屋であれば、登記情報により所有権の異動が確認できた段階で随時台帳の書き換えを行っているようです。こうした場合には、証明書申請日の所有者に対して、その旨を備考欄に記載した証明書を発行してくれます。また、台帳の書き換えがまだの場合であっても、所有権が確認できる建物の謄本を持参することで、証明書発行を受けることができるようです。
 こうした手続きについては、所有家屋のある市区町村ごとに多少異なるかもしれませんので、専門家と連携を取って確認を行うようにしてください。

※執筆時点の法令に基づいております