今回のテーマはご所有不動産が現在の自宅だけ、と言う方には関係がありません。これ以上お読み頂いても時間の無駄になる事が心配です。不動産を複数ご所有で、将来の相続税をにらんで日夜所得税、法人税等の負担にお悩みの方々向けのお話です。結論を一言で言えば、ご自宅を”社宅”にしましょうと言うご提案です。
1.”社宅住まい”は恥ずかしくない!
まず、社宅なんぞに住んで家賃を払うなんてみっともない。そんな風にお考えなら、その手のプライドは捨ててしまいましょう。確かに社宅に住めば家賃の支払いは必要です。ご自身の所有物ではありませんから。でも、誰の物かと言えば、ご自身の息のかかった会社の物です。ましてその会社の役員であるからこそ、役員社宅にお住まいになれる誇りを持ちましょう。それに、表札だけからでは社宅かどうかは分かりません。
2.社宅にする税法上のメリット
現在お住まいのご自宅は、確かに立派なものでしょう。でも立派であればある程、税金を考えた場合ご自宅は、単なる贅沢品に過ぎません。固定資産税や修繕費その他の維持費は毎年相当なもの。でもこれらの諸経費、税法上は家事費と言われ、税金の計算上は何ら考慮して貰えないのです。
しかし、これが法人の所有物となり、役員であるあなたがお住まいになるとどうでしょう。建物全体の建築費・購入費は減価償却の対象です。減価償却費が計上され、毎年会社の経費となっていくのです。更に建物に係る固定資産税や損害保険料、修繕費や庭の手入れの費用等、今までは個人負担で何らの経費性も認められなかったものが、総て会社の負担になるのです。みごとに会社の必要経費として認められるということです。
3.社宅にするための具体的な方法
これから建物を建築なさるなら、法人名義で借り入れをし、法人名義で建てればいいだけのこと。では、既にお持ちの方はどうするか。”所有型法人”の考え方をそのまま踏襲すればいいのです。つまり、帳簿価額(簿価)で法人へ売却するのです。もっとも賃貸物件と異なり耐用年数は1.5倍。
何十年も前の建築で、もはや建築価格が不明なら、失礼ながら税法上は大した価値はありません。建物の耐用年数は木造で22年、鉄骨鉄筋でも47年ですから。もしそれ以上の年数が経過していれば、0円とは言わないまでも、固定資産税の評価額や100万円、200万円程度で十分なケースが多いのではないでしょうか。つまり、はっきりと簿価が分からない場合でも、多額の譲渡税がかかる心配はないでしょう。
一方、建築後間もない建物なら簿価ははっきりしているでしょうが、金額的にはそれなりに多額かと。こんな場合、会社が建物代金を銀行から借り入れなくても、無利息で何十年か払いにすればいいのです。後述しますが家賃と相殺で、お金のやり取りがない場合だってあるでしょう。
4.家賃はいくら払えばいいのか?
では、その家賃、一体いくら払えばいいのでしょう。法律そのものではありませんが、土地も建物も法人なら通達と言う税務職員が遵守すべきルールでは月額として次のように定められています。
{その年度の家屋の固定資産税の課税標準額 × 12%(但し、木造家屋以外の家屋は10%)
+(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%)} × 1/12
建物だけなら土地に係る部分は除きます。なお、借り上げ社宅等の場合は、上記の算式と実際の支払い賃料の50%相当額との多い額。また、豪華社宅と言われるようなプールが併設されていたり、役員個人の嗜好等を著しく反映した設備のあるものは除かれます。いずれにしても、通常の家賃相場に比べかなり低額になることも多いのです。なお、貸与した家屋の床面積が132平方メートル(木造家屋以外は99平方メートル)以下の場合は別計算でさらに安い金額になりますが、ここでは省略をします。
5.注意すべきは相続が近い場合!
こんな有利な社宅ですが、気を付けなければならないことが一つあります。それは相続が近い場合です。お持ちの不動産の種類にもよりますが、ご自宅敷地に330平方メートルまでの80%引きの評価減の特例を適用する場合です。多くの方がご自宅敷地に適用して税負担を減らす、相続税の中で非常に重要な特例なのです。この特例は、被相続人又は被相続人と生計を一にする親族(同じ財布で生活する親族の意)の居住用の土地に適用されるものです。そのため、この土地上の自宅を売却して社宅にし、土地を会社に賃貸すれば、貸付用の土地となり、もはやご自宅敷地ではなくなってしまいます。つまり、80%引きの特例の適用はなくなってしまうのです。相続が近くなったら、また会社から簿価で買い戻す事も考えられます。ただ、それもいつの事かは誰にも分かりません。被相続人候補者の自宅ではなく、自分の会社の役員である子や孫の自宅を社宅にする手も考えられます。夢のような社宅の扱い、一考の価値はありそうです。