お役立ち情報

COLUMN

TOPATO通信もう隠し事はできない? 5308号

ATO通信

5308号

2018年1月31日

阿藤 芳明

もう隠し事はできない?

 既に平成28年からマイナンバーが導入されています。その対象は(1)社会保障(2)税(3)災害対策の3つと言うことになっています。そのことに嘘はないのでしょう。しかし、国としての最重要目的は間違いなく(2)の税対策です。実は税務署はマイナンバーを突破口にして、近年次々と矢継ぎ早に個人情報を集めています。税制改正ばかりでなく、富裕層狙いは急速に本格化しているのです。


1.金融資産の把握

 証券会社の取り組みは既に始まっていて、新規の取引開始に当たってはマイナンバーの提示が求められています。平成30年末までには銀行を含む総ての金融機関がマイナンバーを収集しなければならないのです。かつては架空の名義で口座を作ることもできましたが、遠い昔話になってしまいました。厳格な本人確認のほか、誰の名前でどのような預金がいくらあるのか、総てが白日の下に晒されてしまうのです。
 税務調査の方法も変わってくるでしょう。現在は預金の動きは税務署も照会文書の回答や、実際に金融機関に出向かなければ確認できません。しかし、金融機関のマイナンバー収集が完成すれば、税務署はパソコン操作一つで、総ての預金の動きを把握する事ができるようになるかも知れません。


2.財産及び債務の明細書

 かつては『財産及び債務の明細書』(以下、『財明』と言う)と言われていたのですが、各種所得の合計額が2,000万円超の方が対象となっていました。文字どおり、財産と債務の内訳を確定申告の際に提出することになっていたのです。制度としてはこれで財産状況が把握される建て前になっていました。しかし、これを提出しなくても特段の罰則もなく、2~3度督促がされるだけ。それでも提出をしないと、それ以上の追及はなかったのです。その取扱いが極めて緩いばかりでなく、記載内容も結構いい加減だったのです。例えば土地の価額は路線価でも、固定資産税評価額でも、はたまた取得価額でも、とりあえず記載があればお咎めはありませんでした。


3.財産債務調書への変更

 この財明、現在は『財産債務調書』と名を変えて、厳格なものへ格上げされています。所得基準は2,000万円超と財明と同じですが、もう一つ条件があります。その年の年末において、3億円以上の財産があるか、一定の株式や投資信託等を1億円以上保有している方、と言う条件です。従って、通常の年は500~600万円の所得の方が、たまたまマンションを売却して2,000万円超の所得になった場合は該当しなくなりました。本当の資産家だけが対象なのです。ただ、財産の評価は今回もそれ程厳格ではなく、当局はどんなものを持っているかを把握したいようです。
 一方、この書類の未提出者に対しては、従来の財明のようにウヤムヤにはしません。アメとムチの両方を用意しているのです。提出者に対しては、その調書に記載がある財産に関して所得税・相続税の申告漏れがあっても、過少申告加算税が5%軽減されます。しかし、未提出だったり、記載漏れの財産等がある場合、その財産等に関する所得税の申告漏れがあれば、逆に過少申告加算税が5%加重されると言うものなのです。


4.国外財産調書の提出

 昨今税務当局が、最も注目しているのが海外に在る財産です。相続においても海外のモノはバレないだろうと考える方が多いようなのです。しかし、租税条約が締結されている国同士の情報交換は近年非常に盛んです。その流れを受けてのことなのか、その年の12月末現在で5,000万円を超える国外財産がある方は、国外財産の種類、数量、及び価額を記載した『国外財産調書』を提出しなければなりません。
 相続税を逃れるために、被相続人になる方や相続人が海外に出国するケースも散見されます。実質的に日本に居住していなければ、相続税の対象にならない事を利用したものです。逆にこの調書は、日本に居るならとにかく海外のモノまで何らかの課税をしようとする動きです。国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する方が対象です。一般の日本人は大半が該当するため、国外に5,000万円超の財産があれば提出義務が生じると考えていいでしょう。
 ご注意頂きたいのは、これを提出しない場合、罰則規定が設けられていることです。なんと、次の行為をした場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。(1)偽りの記載をした場合(2)正当な理由なく提出期限内に提出しなかった場合、です。かなり厳しい規定で、海外の財産に当局は神経質になっていることの表れです。


5.対応策はあるのか?

 これからは銀行も証券会社も取引は総て税務署に筒抜けです。国内で財産を築けば財産債務調書、海外に作れば国外財産調書。決してお勧めはしませんが、火事と盗難を覚悟の上でタンス預金しかありません。そう言う時代になったと言う事です。

※執筆時点の法令に基づいております