今年度の税制改正は小粒なものが多い中、影響が比較的大きな相続税の節税対策封じも散見されます。その一つに”一般社団法人に対する相続税の課税”が挙げられます。一般にはあまり馴染みのない一般社団法人ですが、ちょっと工夫をすれば、まだまだ今後も相続税対策には有効で、その秘訣をお話しましょう。
1.何故一般社団法人が相続税対策に使われるのか?
社団法人と言うと、何やら公益目的の堅苦しいイメージがありますが、決してそんな事はありません。社団法人には、公益社団法人と一般社団法人があります。確かに公益社団法人は認可されるのも大変ですが、一般社団法人は株式会社と同様、登記だけで簡単に設立ができてしまいます。そしてどんな業種にも対応が可能です。その代り公益社団法人のような、特別に大きな税務上の特典は用意されていません。では、何が相続税対策として有効なのでしょう。
最大の特徴は株式会社のような出資持ち分がない事でしょう。いわばオーナーのいない法人組織なので、相続時にも株式会社のように株式を評価する必要がない事です。つまり、一般社団法人が所有する財産は相続税の対象にならないと言うことなのです。
2.税制改正でこう変わる!
こんなにうまい話は滅多にありません。全財産を一般社団に持たせたら、相続税よさようならとなる訳ですから。そこで当局は次のように考え改正をしたのです。同族関係者を中心に一般社団法人を運営する場合には、相続税を課税しようと。具体的には、一般社団法人の役員に当たる”理事”が死亡した場合、次のいずれかに該当する時には、同族役員(理事)の人数によって課税財産を算出しようと言うものです。(1)相続開始直前に同族役員(理事)数が総役員数の1/2超(2)相続開始前5年以内に同族役員数が1/2超である期間が3年以上であること、のいずれかです。
そして、その場合の課税される財産額は、(その一般社団法人の純資産額)を(役員死亡時の同族役員数)で除して計算した額とされています。
3.改正点のここに注目!
ここで注目すべきは、改正点が”理事”の数だけに限定していることです。実は一般社団法人も株式会社に似ている構成になっています。株主である議決権者が社員、先程の役員が理事、そして監査役が監事と言う役回りです。株式会社の株主総会が一般社団では社員総会。そこで役員である理事を選任、解任できるのです。つまり、理事の運命は議決権者に委ねられていると言ってもいいのです。と言うことは、親族でなくても息のかかった第三者を理事にすれば、総役員数の1/2超の基準は簡単にクリアーできると言うことなのです。それでも第三者は心配だと言うのなら、就任時に日付はブランクのまま、自署・押印させた『辞任届』を預かっておく、などと言う奥の手も考えられるかも知れません。印鑑証明書まで預かっておけば、更に安心感は得られるでしょう。いざとなったらそれをチラつかせれば、簡単にお引き取り頂けること請け合いです。
いずれにせよ、株式会社が株主のモノであると同様、一般社団法人は社員のモノなのです。
4.監事を活用する手もある
もう一つの方法は監事を活用する方法です。監事とは株式会社で言う監査役。本来の職務は、理事の職務の執行を監査し、理事が作成した書類や報告書等を監査することです。また、職務執行のために必要であれば、理事や使用人に対し報告を求めたり、業務や財産の状況を調査できる権限も与えられています。かなり広範な権限を与えられていると考えて間違いありません。前述の税制改正では、理事の人数だけを規定しています。それなら、親族を理事ではなく監事に登用しておけば、実質的には理事を管理・監督し当方の意向を反映させることは、決して難しいものではありません。
5.この改正だけで終わるとは限らない!
そもそも今回の改正は、親族を中心とする一般社団法人を利用して、相続税対策等を行うことを防止しようとするためのものです。親族の数に着目したのは、そのための第一段階に過ぎないと考えられなくもありません。課税当局と納税をする立場の両者は、納税をする側が税法の目をかいくぐり、法的に上手いことを企むことをすると、今度はその穴を塞ごうとして法改正をすると言うイタチごっこの連続です。この改正だけで十分な成果が出なければ、当局は第二、第三の税制改正をしてくるかもしれません。もちろん、脱税や脱法行為は税理士として決してお勧めできません。
しかし個人、とりわけ資産家をターゲットとした個人課税の強化に対しては、何らかの工夫をせざるを得ないのもまた現実です。納税をする立場としては、税制改正の度に、是々非々で対応することが今後ますます必要になってくるでしょう。