税務署の最大の目的は何なのかご存じでしょうか。まさか医療費控除等で税金を還付してくれるところ、などと呑気な事はおっしゃらないと思います。そんな業務はホンの一部。適正な税務行政を遂行する役所です。本音を言えば、脱税の防止や摘発が最大の目的なのです。そのために、実は税務についての様々な情報が日々収集されているのです。
1.”資料箋”と言う名の情報
例えば税務署がA社の法人税の調査を行ったとします。帳簿や証票類を基に、売上や仕入、諸経費に亘るまで精細に内容や決済方法等を確認するでしょう。その段階で仕入についてB社との取引を確認すれば、その情報はB社の売上になる訳です。税務署はA社を調査した際、このような作業をB社だけでなく、C社にもD社にも行っているのです。また、逆も真でA社の売上を調査すれば、X社やY社、Z社の仕入の情報収集ができる訳です。
この情報収集の作業を資料化すると言い、昔は所定の紙に残したので、これが”資料箋”と呼ばれるものになっていたのです。さすがに現在では紙でなくデータの形で集積していますが…。
2.資料箋の種類
これらを実地調査資料箋と言いますが、資料箋はこの実地調査資料箋だけではありません。その他にも毎年会社が税務署に提出する地代や家賃、権利金や更新料等の情報、生命保険会社が提出する一時金や年金の支払調書、給与の支払者が提出する源泉徴収票等々の法律で義務付けられている法定資料と言われるものもあります。
変わったところでは、”重要資料箋”と言うものもあります。これは調査等の過程で相手方の不正や脱税に繋がる可能性のある事柄を、取引銀行、決済口座等まで詳細に記載した資料箋です。事の重要性に鑑み、その名も”重要資料箋”と言うのですが、管理も厳重で統括官と言われる管理職が直接保管をしているのです。また、この資料箋は大昔は重要性が目立つように赤枠の大きな紙に記されているため、通称”赤紙”とも呼ばれていました。
3.情報源はまだまだあるぞ!
上記に述べた情報の収集は、いかにも税務署がやりそうな想像もできるでしょう。これらは調査の過程で、言ってみれば業務としてついでに、と言う意味合いもあるような気はします。そうではなく、もっと積極的に情報の収集を行う場合もあるのです。例えばデパートの外商部がそれ。デパートで外商を利用する方はシャツやパンツを買う訳ではありません。オーダーのスーツ程度で利用することはあるでしょうが、高額品を購入する顧客なのです。貴金属、書画骨董等店頭には並べていない物を買って頂く顧客層が外商部の顧客なのです。
つまり、外商部に情報収集に行けば、いつ、誰が、どんな物を、いくらで買ったのかが分かる訳です。先ずはそれ程高額な物を買えるだけの所得の申告をしているのか、最終的に相続財産として将来計上されるのか、そして決済銀行は何銀行なのか等々様々な情報が得られることになる訳です。
その他にも高級外車資料箋と言うのもあります。普通のベンツやBMW程度の車ではなく、スーパーカーとか1億円を超えるような高級外車は、いつ、誰がいくらで買ったのかを資料化することもあるのです。
4.税務署の誰が情報収集をするのか?
前述の調査の際に売上や仕入から、それらを資料化するのは、勿論通常の調査の過程で調査官が容易に行えるものであることは、ご理解頂けたことでしょう。それでは高額な書画骨董、高級外車等は税務職員のどう言う役割の人が情報収集を行っているのでしょうか。
実は税務署や国税局にはその手の作業を専門にやっている人達がいるのです。資料源の開発と言う言い方をしますが、何処へ行ったら調査の際に有効な情報が、或いは申告漏れが生じそうな情報が得られそうか、日夜それだけのために励んでいる人達がいるのです。
5.鬼より怖い”査察”と”リョーチョー”
その最たるものが国税局の査察部と資料調査課、通称リョーチョーでしょう。場合によっては、甲氏の調査の過程で結果的に乙氏、丙氏の預金情報を金融機関で収集できてしまうこともあるでしょう。本来は違法でしょうが、横目でちらっと見て情報収集することから、横目資料とも呼ばれています。また、週刊誌や新聞紙上で掲載されたことをヒントに、実態を解明し調査に選定、着手することもあるのです。特に上記のリョーチョーは各種の情報収集をしては、税務署や査察部に連絡し、自らが調査を行うこともあるのです。何はともあれ、税務署も国税局も必死になって不正に繋がるネタを見つけようとしています。善良な市民には全く関係のない話ですが、世の中にはそれだけ悪い人間が多いと言うことなのでしょうか。