コロナ禍の影響で、今年の確定申告(所得税及び贈与税)は申告期限が例年より1ケ月延び4月16日でした。筆者も税務に携わる仕事をして40年以上になりますが、全国一律の延長はもちろん初めての経験です。
しかし、ことは個人の確定申告だけにとどまらず、あらゆる税目にその影響は及んでいます。もはや、申告期限、納税期限はないも同然?一体全体、いつまで続くぬかる溝…。税務署の対応も今回はかなり大胆です。
1.納期限等の延長は例外中の例外
今回の延長措置はかなり特異なケースなのです。通常、申告期限(納税の期限も同様)が延長されるのは、(1)一定の地域にわたる災害があった場合と(2)個別事情がある場合、の2通りの状況が考えられます。今回は文字通り(1)に該当し、国税庁長官が地域と期限を指定するものです。その地域はまさに日本全国に及び、所得税と贈与税をひと月延長すると言うもの。但し、その後、つまり4月17日以降であっても、申告書の余白に『新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請』である旨を付記して提出すれば、申告書の提出日が申告期限とされているのです。では、申告書の提出はいつまでできるのか?それはまさしく上記(2)の個別事情によるものなので、事実上期限なしと考えていいのでしょう。また、個別事情であるため個別の申請が必要になりますが、今回は個々の申請手続きも省略が可能なのです。それ程、このコロナ禍は緊急事態だったと考えていいと思います。
2.他の税目の延長期限
それでは、所得税や贈与税以外の税目についても確認をしておきましょう。具体的には相続税、法人税等ですが、あくまで原則としては申告期限も通常通りなのです。
しかし、これも所得税、贈与税と同様に本来の申告期限後であっても、申告書の余白に『新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請』である旨を付記して提出すれば、申告書の提出日が申告期限とされているのです。
つまり、申告書にこの記載があれば、実際の申告書の提出日が申告期限とされます。
3.納税を猶予する特例制度
今回の特別な措置ですが、勿論法律に基づいて行われています。正式名称はちょっと長くなりますが、その名も『新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律』(以下、「新型コロナ税特法」と言います。)がそれで、1年間国税の納付を猶予することができるのです。
まず、対象となる方ですが、次の(1)と(2)の両方を満たすことが必要です。(1)新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1ケ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること。(2)一時に納税を行うことが困難であること。ここで”一時に納税を行うことが困難”かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮に入れるなど、申請者の状況に配慮して適切に対応する、となっています。
次に、対象となる国税ですが、(1)令和2年2月1日から同3年2月1日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての税目です。但し、国税の中でも印紙で納めるものは除かれています。(2)また、上記(1)の内、既に納期限が過ぎている未納の国税についても、遡ってこの特例を利用することができます。
そして最後にその申請手続きですが、この特例を適用してもらう場合、令和2年6月30日又は納期限のいずれか遅い方の日までに申請することが必要になります。しかし、その申請も前述のように極めて簡易で従来にはなかった対応です。
4.国税としては異例尽くしの対応
通常、国税について納税を猶予してもらう場合、国に借金をすることと同じであるため、原則としてそのための担保が必要になります。しかし、今回の新型コロナ税特法では担保なしで良いことになっています。更に、本来の期限より遅れるため、その期間に対する利息、つまり延滞税が課される場合もあるのです。しかし、今回はこれも全て免除され、無担保、延滞税なしと言う大盤振る舞いなのです。
今回のコロナ禍に限らず、今までも災害等があった場合には、税務当局も申告期限等の延長をし、それなりの対応策は講じていました。但し、従来は資産等への損害や帳簿の滅失と言った直接の被害が生じていることが、その主な条件となっていたのです。しかし、今回のコロナ禍については、外出自粛の要請が行われるなど、自己の責めに帰さない理由によってその期限までに申告、納税等ができないことも想定されます。そこで、関与税理士や経理担当者が感染したり、事務手続きが不可能になった等の事情があれば、個別の申請により期限の延長が柔軟に認められる事になっているのです。それだけ今回の状況が深刻であることの何よりの証左なのでしょう。