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COLUMN

TOPATO通信資産の組換え(1) 5343号

ATO通信

5343号

2020年12月24日

阿藤 芳明

資産の組換え(1)

 読者の皆さんは”資産の組換え”について考えたことがおありでしょうか。収益物件と一口に言っても、収益性の低い物件から高いものまで。また、空室率の低い物件も高い物件もあって、悩みの種は尽きないのではないでしょうか。それらを総合的に考えて、組み換えていくことは色々な意味で非常に有用です。ただ、そこで気になるのが税務の取り扱い。実は税務においても各種の特例が用意されています。それらを上手く活用できるよう、2回に分けて詳細を見ていきましょう。


1.税務の基本的な考え方

 税務の考え方の根本と言うか基本に、組換えについての特別な配慮は本来はありません。組換えと言うからには、先ずは従来からある資産を売却や処分し、その代わりに新たな資産を購入、取得することになります。
 その場合に、例えばある資産を1,000万円で売却し、その資金1,000万円で新たな資産を購入したらどうでしょう。結局のところ、資産の種類である”モノ”が変わっただけで、1,000万円と言う資産の保有状況には何ら変化がありません。言ってみれば、損も得もしていない、そんな考え方もあるのではないでしょうか。
 と言うより、税務を考えない一般常識的な考え方からすれば、むしろそれが当然の感覚なのかも知れません。儲かって預貯金が増えたのなら、課税もやむを得ないのでしょうが、お金も残っていないし、儲かったと言う感覚はないからでしょう。
 しかし、税務の基本的な姿勢は異なります。
 売却・処分した代金で何を購入・取得しても、本来税務はそのお金の使途には着目はしないのです。売却し、儲かった事実があれば、そこに着目して課税をするのが税務の基本的な考え方だからなのです。


2.事業用資産の買換え特例

 そうは言っても、実際に税を納める側の立場にも少しは配慮して課税しよう、と言うのが”特定の事業用資産の買換え特例”と言われる特例の考え方なのです。
 一般の方にもその概要をご理解頂くため、敢えて厳密ではありませんが、大枠のご説明から始めましょう。これは国内にある所有期間が10年を超える土地等を、同じく国内にある土地等で面積が300平方メートル以上のものに買い換えた場合の特例です。売却代金で他の資産を購入したら、本来は他の資産の購入の有無に関わりなく課税するところを、その時は課税を見合わせて最小限に留めようとするのです。但し、課税のチャンスを将来に先送りするだけで、課税の繰り延べと言う表現をします。決して税金が減額されたり、免除になったりするものではありません。
 では、この課税の繰り延べとはどんなことなのでしょう。再び1,000万円の資産を前提に、A土地を例に考えてみましょう。これの原価と言うか取得費は300万円とします。例えば、A土地を1,000万円で売却してB土地を1,000万円で取得した場合です。B土地の税務上の原価である取得費は1,000万円ではなく、A土地の原価である300万円を引き継ぐと言う考え方なのです。これが課税の繰り延べと言う特別な考え方をしてくれる特例なのです。但し、実際の税務の計算は非常に複雑ですので注意が必要です。
 一言だけ残念なことを言っておくと、”8割買換え”と言うのですが、この1,000万円全額がその対象にはならず、8割部分だけがその対象となると言うことなのです。つまり、2割部分は完全に課税の対象となるということなのです。


3.課税の繰り延べの問題点

 では、これの何が問題なのでしょうか。それはB土地を売却した場合です。仮に数年後にB土地が1,500万円で売却できたとしましょう。その売却益は1,500万円-1,000万円=500万円とはなりません。A土地の当初の原価である300万円を引き継ぐため、1,500万円-300万円=1,200万円が売却益になると言うものです。
 もともと300万円のA土地を1,000万円で売却した時に700万円の課税、そして1,000万円のB土地を1,500万円で売却した時に500万円の課税で、合計1,200万円の課税をされる筈ではありました。そう考えればご納得頂けるかも知れません。
 しかし、B土地の売却時に一気に1,200万円もの課税が待っているのです。B土地を未来永劫売却しなければこのような事態は生じませんが、これが土地ではなく建物への買換えだったらどうでしょう。
 実はこれが最大の問題で、結論から言えば建物への買換えはあまりお勧めができることではありません。思わせぶりで恐縮ですが、何故なのか、次回で詳しくお話ししましょう。

※執筆時点の法令に基づいております