今月も前号に引き続き、資産の組換えについてです。前号では資産の組換えで、課税の繰り延べになる場合の注意喚起をしたところで話が中断しています。それの後半部分と、更なる資産の組換えについても検証していきましょう。話は交換や等価交換と言われる手法にまで発展していきます。
1.課税の繰り延べの問題点
まずは簡単に復習をしておくと、300万円で取得したA土地を1,000万円で売却し、その1,000万円でB土地を取得します。今回もその概要をご理解頂くため、敢えて厳密ではありませんが大枠の説明に留めておきます。このケースで買換え特例を使うと、B土地の取得費は1,000万円ではなく300万円を引き継ぐ、と言うことなのです。そうではあっても、B土地を売らない限りその時点で若干の譲渡税負担で完結です。問題は仮にB土地が1,500万円で売却できた場合、売却益は1,500万円-1,000万円=500万円とはならず、1,500万円-300万円=1,200万円となり大きな税負担になってしまうと言うものです。実際に1,000万円を投じてB土地を購入しているにもかかわらず、なのです。
2.買換え資産が建物の場合
買換え資産が建物の場合は更に問題がその後何年にも及びます。実際の建築価額が前述の場合のB土地と同様、1,000万円でも300万円を引き継ぎます。B土地の場合はそれを売却しなければあまり問題はありませんでした。しかし、建物の場合には減価償却を通じてその価額を費用化していくことになります。
そうすると、本来は1,000万円がその対象となるにもかかわらず、引継ぎ価額の300万円だけしか費用化する事ができません。自宅のように減価償却の必要がないものであればまだいいでしょう。しかし、賃貸物件の場合は費用化が少額となり、結果として賃貸期間中はずっと課税される所得が増大する結果となってしまうのです。
3.交換の特例
話は変わって資産の組換え手法の一つに、”交換”があります。これは文字通り、物件甲と物件乙を交換するもので、双方の資産価値の差額について、差金の授受がなされることもあるでしょう。税務においては本来は交換をした時点で双方が拠出した資産について、譲渡したものとして譲渡税の対象となるのです。しかし、税金を納める側の立場で考えると、等価であれば金銭のやり取りはなく、お金も全く動きません。従って、損も得もなく譲渡税の課税に疑問を感じることもあるでしょう。そこで、課税当局も次の要件を満たす場合に限って、金銭のやり取りがなければ特例として何らの課税も行わないのです。(1)同じ種類の固定資産であること(2)双方の資産が1年以上保有しているもので、かつ交換の目的で取得したものでないこと(3)交換後、従前と同一の用途に供すること(4)両者に差額がある場合、多い方の価額の20%以内であること 等々です。
ここで問題になるのが、双方の資産の価額ですが、”時価”と言うことになっています。ただ、時価と言われてもその判断は非常に難しいものがあります。特に親族間で交換を行う場合、税務的にはその客観性が問われることも多いのです。親子間では親は子のために金額的には損を承知で交換することもあるからです。従って、親族間での交換は後日税務当局に指摘を受けないよう、不動産鑑定士や不動産業者等の専門家の助言や疎明資料を準備しておくことが有用です。
逆に第三者同士の交換については、その懸念が全くありません。公示価格や路線価等で計算すると、明らかに20%超の開差があっても、当事者同士で等価であるとの合意が得られていれば、それで問題はありません。そこに贈与の意思がなければ、課税上問題は生じないからです。客観的価値以上の効用がある場合、そのような交換も十分あり得るからです。なお、差額について金銭でのやり取りがなされる場合、その部分については譲渡税が課税されますので、注意が必要です。
4.等価交換
一般に等価交換と言うと、土地の所有者がその敷地を提供して、その土地上にディベロッパーと共同でマンション等を建築する手法を言います。土地の所有者は建築代金を支払わず、それに相当する土地を提供することにより、資金なしで建物を建築することができるため、利用なさる方も多いようです。これを税務の世界では、”既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え等”の特例と言われています。典型的なのは、三大都市圏の既成市街地等内にある土地を売却して、その土地上にマンション等の中高層耐火建築物を建設する場合でしょう。これも本来なら土地をディベロッパーに売却した時点で譲渡税が課税されるべきところ、その敷地に一定の高層マンションを建築することを条件に課税の繰り延べができるもの。組換えの好例とも言えるでしょう。