今年も間もなく確定申告の季節が始まります。その確定申告書をはじめ、税務に関する提出書類には押印しなければならないものが数多いことはご存じのとおりです。
しかし、昨今、ハンコは不要との議論も盛んにおこなわれているようです。筆者もそれに異を唱えるものではありませんが、不要と言うか形式だけのものは他にもありそうです。デジタル化に向けてハンコ以外のテーマも見ていきましょう。
1.全く意味のない認印
ハンコ不要の議論の最たるものは、いわゆる認印、三文判などと言われているものではないでしょうか。とりわけ佐藤、鈴木などと言うお名前の方は、100円ショップで簡単に手に入ります。本人が押印したかどうかの確認は、あれでは全く意味を成しません。自慢にもなりませんが、我がATOの事務所にもその手の印鑑は沢山用意が整っています。従って、お客様がお忘れの時には『ウチの事務所にもありますのでお使い下さい。』なんてサービス(?)も提供をしています。
2.確実な本人確認はサイン、ご署名!
確実なのはご本人のご署名でしょう。現在は税務の提出書類もネットで送信できるものが多く、ハンコの押印はありません。そうすると、お客様の同意なしに、税理士はいくらでも勝手な申告書を提出することが可能になります。そこでATOではわざわざ紙の書類を用意して、そこにお客様のご署名を頂いています。その内容と同一のものを電子申告していると言うのが実態です。ついでに押印までをもして頂いてはおりますが…。つまり、ご署名頂いた書類そのものは税務署には提出をせず、内容に同意を頂いたことの証左として、その現物を事務所に保管している訳です。
3.電子申告をすると
申告書や各種の申請書類は提出期限が法律で定められています。そこで、その提出日時を証明するため、税務署では電子申告をすると、その控えに受領年月日と時間が何時、何分、何秒かまで刻印されるようになっているのです。
これは昔の収受印と言う受領を証明するためのハンコの代わりです。提出にも受領にも、とにかくハンコ、ハンコの社会なのです。
4.リアルタイムがバレない方がいいことも
世の中は何事も真実だけしか通用しない、と言うことになると、税務だけに限定していえば、困るのはむしろ、納税をする方の側でしょう。例えば株式会社の場合で考えてみましょう。会社法上の規定もあり、株主総会は通常、決算期末から3ケ月以内に開催されています。そこで出席株主や委任状によって株主の意向を確認し、様々なことを決議していくことになっています。例えば、今期はどれくらいの金額を配当するか、来期は役員報酬をどの程度増額、又は減額するか、はたまた会社の基本となる資本金を増資、又は減資するか、や定款の変更を行うか等々です。
上場会社の行う株主総会に出席なさった方も、数多くいらっしゃるとは思います。そこでは上記のような議案が粛々と進められ、決定していくわけです。しかし、我が国の圧倒的多数を占めるいわゆる中小企業はどうでしょう。
5.株主総会の実施状況
上場をしていない、いわゆる市井の中小企業の実態として、株主総会を実施している会社が非常に少ないことは間違いありません。中には『ウチの会社でもそんなことする必要あるの?』とまで仰る方も。株式会社であれば、上場をしていようがいまいが、本来は実施すべきことなのです。
では、株主総会を開催した上で決議すべき事項を、開催しないで決議するとは具体的にはどういう事なのでしょうか。回答としては、開催した記録だけを作成すればいいのです。これが株主総会議事録で、開催日時、場所、議決権の数や出席株主等のほか、次のような文言の記載が。
『議長は開会を宣し、上記のとおり定足数に足る株主の出席があったので、本総会は適法に成立した旨を述べ、議題の審議に入った。』そして、決算書類の承認や役員報酬の額が〇〇のように満場一致で承認可決された、と謳うのです。現実は架空のサル芝居にもかかわらず、です。
6.税務署は実態を分かっているのか?
では、上記のような実態を税務署は分かっているのでしょうか。例えば特に税務上問題になる役員報酬の改定をするのには、株主総会決議が必要です。それをしないで報酬額を変更すれば、会社法違反。ただ、会社法違反ではあっても、それが直ちに税務上に影響を与えるものではありません。必ずしも税務はすべてが会社法と連動している訳ではないためです。しかし、税務署は開催した旨の議事録の確認は絶対にします。もしそれがなければ、役員報酬の増減を認めず、何らかの課税を行うのです。サル芝居であることは税務署だって先刻ご承知です。だからこそ、税務調査に対応すべく税理士は形式的な議事録作成を、ハンコを押すように黙々と進めていくのです(ああ悲しい!)。