相続税や贈与税の土地の評価にあたっては、市街地は原則として路線価で計算することになっています。その路線価は、毎年1月1日時点での時価であり、それがその年1年を通して適用されるルールです。しかし、現在のような状況下、地価の下落が著しい地域もあるようで、税務署も年の途中で路線価を調整する異例の事態が…。
1.多少の変動はあっても、通常は1年ルール
相続税や贈与税の路線価は、その年の1月1日の時価として、毎年7月上旬(令和2年は7月1日)に公表されます。それをその年の年末まで適用するのです。つまり、1月1日から12月31日まで、閏年以外は365日間にわたり、この価格を利用することになっています。
地価の変動が1年間の間で全く変動がない訳ではないでしょう。しかし、多少の変動があっても、特別問題になるほどのものでない限り、通常は一年ベースで適用してきたのです。
2.コロナ禍は、昨年1月16日から
問題は今回のコロナ禍による影響です。国内で初めてコロナ感染者が確認されたのが、昨年の1月16日。それ以降、コロナの影響で社会、経済情勢が大きく急変したのは読者の皆さんもご存じのとおりです。
つまり、昨年の1月1日時点での土地の時価に、このコロナ禍の影響は全く反映されていないと言うことなのです。それにもかかわらず、昨年1年間の相続・贈与については、コロナ禍の影響が反映されていない路線価で計算されてしまうと言う現象が生じるのです。その結果、実際の価値以上の高い価額で評価されてしまうのです。
もっとも、路線価自体は一応、実際の売買時の時価の80%相当で算出されていることになっています。従って、時価に多少の変動があっても、減額幅が20%以内であれば、路線価が時価を上回ることはないと言う理屈にはなります。
3.時点修正の考え方
路線価が1月1日時点での時価ではあっても、公表をされるのは毎年7月。つまり、それまでに約半年の時間が経過する訳ですが、その間の作業はどの程度のことをするのでしょう?
現実問題として、1月1日の1日だけで全国一斉にその土地の時価を調査することは不可能でしょう。それ以前、前年の内から実際に査定作業は始まるのでしょう。筆者もその具体的な日程や細かな工程は知る由もありません。ただ、前年の12月末までには概ねの価格算定は行った上で、7月の公表までに調整を行うことになるのでしょう。
4.大阪での事例ですが…
さて、東京ではなく大阪での事例ですが、こんな事例があったのです。昨年、令和2年において、9月末時点での地価が7月1日に公表された路線価に較べ、かなりの下落現象が見られたのです。なんと、その率20%を超える下落率になったとか。路線価は前述のとおり1月1日時点での時価ですが、半年後の7月1日でこの下落率です。もし、7月以降もそのまま公表した路線価を用いて相続税・贈与税を算出したら、実勢価格以上の路線価で税負担をすることになってしまいます。
そこで、当局は昨年7月から9月の間に相続・贈与があった案件について、路線価の補正を行ったのです。もちろん、これは全国一律に補正を行ったわけではなく、大阪の一部に限定した土地ではあります。具体的には4%の減額補正なのですが、路線価を公表後にさらに補正をすると言うのは、まさに前代未聞。水害で浸水した土地などを除き、異例中の異例の出来事なのです。
5.更なる補正も
また、昨年の9月以降、10月から12月の相続・贈与については、今年の4月に改めて減額補正の適用を検討することになっています。こちらについては前述の大阪だけではなく、名古屋市の一部も対象となる可能性があるようです。
ただ、残念ながら昨年の1月から6月までの相続や贈与については、減額補正は適用されない見込みのようです。
相続については、自殺でもしない限り亡くなる日を選択はできません。ただ、極端な例を挙げれば、12月末日と翌1月1日の僅か1日の違いで適用される年分が異なるため、路線価が大きく異なることにもなる訳です。
6.救済策はあるのか?
このような僅か1日の違いで極端な下落となるような場合には、下落後の路線価を適用して申告することも、十分可能であると筆者は考えます。既に申告書を提出してしまっている場合には、更正の請求と言って、申告書の出し直しも可能です。以前は申告書の提出期限から1年以内と期間も短かったのですが、現在は5年と比較的長期にわたっています。或いは、認められるかどうかは別として、申告書の提出後に諸般の事情から路線価に疑問があれば、不動産鑑定を行ってやり直しも理論的には可能です。いずれにせよ、コロナ禍は路線価にまで悩ましい事態を生じさせています。