最近は、大企業が資本金を減少させて1億円にするというニュースをよく見かけます。税務のルールでは、会社の資本金が1億円以下になると中小企業扱い(正確には中小法人)となります。たとえそれが上場会社であってもです。
資本金を減少させる手続きである減資、この制度を利用(悪用?)して税務メリットを享受しようという目論見なのでしょう。
1. 背に腹は代えられない
世界に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症によって、多くの会社がダメージを受けています。旅行関連業界や飲食業界は影響が特に大きく、大幅な売上減となっているところも多いことでしょう。
このような状況から、税負担の軽減を図るために、大企業であってもプライドを捨てた減資を行って中小法人になるところが増えています。名の知れた大企業には非上場のところもありますが、この減資は上場会社でもさかんに行われているようです。
新聞報道によると、2020年に資本金を1億円以下へと減資を行った会社は、上場会社だけでも16社に上がっているとのこと。2021年も引き続き減資を表明する会社が続出しており、有名どころでは、カッパ・クリエイトやチムニー、JTB(非上場)などです。
背に腹は代えられないとは言いますが、メンツはさておき、大企業の減資ブームが到来しているようです。
2.シャープのときは大反対だったはず
少し前のことになりますが、シャープの減資騒ぎを覚えておりますでしょうか。経営再建中であったシャープは、中小法人に対する税務上の恩恵を得るべく、2015年に1億円への減資を試みました。結果はどうだったでしょうか。
税務上の中小法人になるためだけに減資を行うなどけしからんと、マスコミの報道を皮切りに世間的にも大問題となり、結局は減資を行えずに断念をしたのでした。
では、今はどうなのでしょうか。対外的に発表している理由はどうあれ、大企業が行う減資の真意はシャープのときと何ら変わっていないはず。コロナ禍だからこその免罪符なのでしょうか?時が変われば見方も変わってきたということです。
3.中小法人になったときの恩恵
それでは、資本金を1億円にするとどのような恩恵があるのでしょうか。まず挙げられるものとしては、法人税の軽減税率があります。法人税率は本来23.2%ですが、年800万円以下の所得について19%に引き下げられます。また、過去3年間の平均所得が15億円以下になると、この19%がさらに軽減されて15%になります。
そして、大きな恩恵があると考えられるものは、欠損金の繰越控除制度だと思われます。欠損金とは赤字のこと、赤字になった場合には、その赤字を翌期以降に繰り越して黒字と相殺できることになっています。ところが、大企業の場合には相殺ルールに黒字の50%までという利用制限がかかっていて、繰り越した赤字を効率的に使うことができません。これが資本金1億円以下になると制限が外れ、翌期の黒字と全額相殺可能な状態になるのです。
地方税においては、外形標準課税という制度から逃れることができます。資本金が1億円超の場合には外形標準課税の対象となり、赤字でも多額の事業税を負担する必要があります。この制度の対象外となれば、赤字のときの事業税負担をゼロにできるのです。
4.ほどなく税制改正か
資本金は会社の規模を表す重要な財務基盤の指標であり、信用力の物差しのひとつでもあったはずです。このような背景もあり、税務上においても資本金の多寡によって差異を設けているのです。
ところが最近は、他社でも行っているのだから大丈夫と言わんばかりに、減資を行って見かけ上の資本金だけを減らした仮面中小法人が増えてきているのです。
このような状況下では、ほどなくして税制改正が行われると思います。新聞報道が行われ、社会的にもなっていることからしても間違いないでしょう。改正内容はあくまで推察ですが、資本金のみで判断するのではなく、従業員数を加味することになるのではないでしょうか。例えば、1千人を超える会社を除外するといった感じです。諸外国ではすでに増税ムードが出始めています。新型コロナウイルス感染症の収束が、新たな税制見直しのスタートなのかもしれません。
5.なにごともほどほどに
資本金を1億円に減資をして税務上の恩恵を得ることは、何も悪いことではありません。あくまで今のルールに従って行っていることです。ただし、国税当局が問題視しないのは、ほどほどに行われている状況であればこそ。節税と税制改正はいたちごっこですが、節税目的ありきと思われるようなケースが横行すれば、当然に改正が行われます。税務に限らず、なにごともやりすぎてはダメだということが世の常なのです。