相続では、通常は遺産分割協議という話し合いを行って財産の分け方を決めます。ただし、遺言がある場合には遺言に従って行いますので、分割協議を行う必要がなくなります。遺言を上手に活用すれば、話し合いで決めるのが難しいことも実現できることでしょう。
1.公正証書遺言が間違いない
遺言にはいくつかの種類があります。一般的には、自筆証書遺言、公正証書遺言の2種類を知っておけば良いでしょう。自筆証書遺言は、財産目録部分をパソコン等で作成することができるようになりましたが、本文そのものは自筆でなくてはいけません。また、通常は自宅で保管することから紛失の可能性があったのですが、新たに法務局で保管する制度が出来ました。これを利用すれば、紛失や破棄などの心配が無くなる事でしょう。しかしながら、遺言書を作成するのであればやはり公正証書遺言がベストです。公正証書遺言は費用が掛かるから、という理由だけで選択しないのであればとても残念です。公証人がその内容をチェックしてくれることから、法律上の不備が無いものが仕上がるという大きなメリットがあります。また、自筆証書遺言の場合は、本当に本人の意思なのか?というような疑念の目や、遺言の有効性について争いが生じるケースもあります。ところが、公正証書遺言であれば実務的にはそのようなことは生じません。安心を買ったと思えば作成費用は安いものです。
2.まずは遺留分割合を把握
遺言書を作成するのであれば、まずは遺留分を把握しましょう。遺留分とは、相続財産に対する相続人の最低限の権利のことです。遺留分の割合は、通常は相続財産全体の2分の1になります。そして、相続人が複数いればこれを民法の相続割合で按分することになっています。たとえば、相続人が妻と子2人であれば、妻は1/2×1/2=1/4、子は各々1/2×1/4=1/8が最低限の権利というわけです。
なお、この権利を侵した遺言とすることは自由ですが、権利を侵された相続人は遺留分に満たない分の財産相当額を他の相続人に請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。したがって、トラブルが生じないようにするためには、できれば遺留分に配慮した遺言書を作成することがポイントです。ちなみに、相続人でも兄弟姉妹は遺留分がないので、配慮しないで大丈夫です。
3.養子が増えると遺留分が減る
遺留分は相続人が複数いれば相続割合で分けて計算します。ということは、相続人が増えると1人あたりの遺留分割合が少なくなるということです。配偶者の相続割合を下げることはできませんが、子の相続割合は減少します。なぜなら子どもの数は増えるからです。子からすれば、兄弟が増えれば相続割合が少なくなるのです。
これは実子に限った話ではありません。法律上は同じ権利を持っているのですから、養子を取るとその分遺留分が減少します。養子の数が増えるほど、子の遺留分は減少していくので遺言書が書きやすくなるかもしれません。言うまでも無いですが、だからといって、悪意をもって養子を活用するのはダメですが、、、
4.「相続させる遺言」は放棄できない
相続人に財産を承継させる場合、遺言の表記としては〇〇を相続させると記載するはずです。相続させるとした方が、手続的にメリットが多いのでこのように記載するのですが、これには1つ注意点があります。
遺言があっても、相続人全員の合意があれば実務的には遺言を利用せずに遺産分割協議を行うことが可能です。ただし、あくまで相続人全員の合意があればです。A土地を長男へ、B土地を次男へ相続させるとした遺言があったとしましょう。ここで次男はB土地を相続したくないと思いましたが、長男は遺言に不満がないため同意をしませんでした。そうすると次男はどうなるでしょうか。
なんと、遺言が活かされるため、次男はB土地を相続しないという選択肢を取れません。B土地を本当に相続したくないのであれば、相続放棄をするしかなくなります。でも相続放棄をしてしまうと、その他の財産も一切相続できなくなってしまいます。B土地を相続するのか、全てを捨てて相続放棄をするのか悩ましいところです。もしも、B土地が不良財産だとしたら、、、相続放棄の選択をせまる遺言ができるかもしれません。
5.寄与分対応として活用すべき
日々の生活の世話や介護など、ご自身の身の回りの面倒を見てきた相続人に配慮したいのであれば、積極的に遺言の活用を考えましょう。法律上は寄与分というものが用意されてはいますが、金額的に認められるのは実際には少額です。そもそも、相続人同士で仲良く寄与分の話をして、その貢献割合を決めることなど現実には難しいでしょう。他の相続人よりも多く相続させたい気持ちがあるのであれば、遺言を活用しましょう。遺留分を満たした遺言書があれば実現させることが可能なのです。
なによりも仲の良い家族関係を継続するのが一番。上手に使ってトラブル回避に活用しましょう。遺言を活かすも殺すもあなた次第です。