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TOPATO通信相続分譲渡を賢く使う 5365号

ATO通信

5365号

2022年10月31日

高木 康裕

相続分譲渡を賢く使う

 相続の手続きは、遺言が無ければ相続人間で遺産分割協議を行って決めることになります。この協議は全員の合意が必須ですので、当事者の人数が多くなれば協議自体がかなり面倒な手続きです。争いが無くとも手間と時間が掛かるのです。遺産分割をスムーズに進めたい!そんな時は相続分の譲渡が活用できるかもしれません。


1. 相続分の譲渡

 相続人は遺産全体に対して割合的な持分を有しており、これを相続分といいます。相続人が配偶者と子1人であれば1/2ずつの法定相続分を持つことはご存知の通りです。この相続分ですが、実は他の共同相続人や第三者に譲渡することが可能です。相続分の譲渡を行うと、その相続人は遺産分割協議の当事者から外れます。その代わりに譲受人がその相続分の権利・義務を引き継ぐというわけです。
 したがって、相続人間で相続分の譲渡を行えば、遺産分割協議の対象人数を減らす効果があるのです。
 話し合いの当事者が減るのですから、相続人の数が多い場合には、遺産分割の手続きがスムーズになることが期待できます。譲渡は無償・有償のどちらでも構いません。無償であれば譲渡を行った相続人は手続きから抜けて何も相続しなかったことになります。有償で譲渡した場合には、代償分割と同じように考えますので、その譲渡代金が相続財産になります。
 なお、借金などの相続債務がある場合には注意が必要です。相続分の譲渡をした人は相続手続きから抜けるのですが、相続放棄と異なり債権者から責任を免れることができない(対抗できない)とされています。


2.相続放棄より活用できる?

 遺産の取得を希望しない、遺産分割に参加したくないというのであれば、相続放棄をすれば済むことです。相続債務の問題も回避できます。また、現物財産の相続ではなく、金銭を望むのであれば代償分割を選択すれば良いのです。それでは、相続分譲渡の利用価値は何なのでしょうか。先ほどの考え方は、あくまで譲渡を行う人からの視点です。しかし、相続分譲渡を受ける相続人側からすると利用価値を結構見出せるのではないでしょうか。
 ※相続をできるだけ意識させない!
 このような事例がありました。被相続人には配偶者や子がいなかったため相続人は兄弟でした。ただし、その内の1人は面識も無い異父兄弟の子だったのです。兄弟の気持ちとしては他人と変わりません。調べてみると、地方在住で高齢なことが分かりましたので、もしかすると相続には興味がない可能性もありそうです。そこで、まずは相続を意識させずに遺産分割から抜けてもらうことができないかを考えました。ご挨拶の手紙に、相続財産は多少の預金しかなく、自宅は借地であるためその手続きに迫られていること、今後の相続手続きが煩雑になることから、今回は被相続人の近郊にいる他の兄弟だけで手続きを進めたい旨を伝えました。すると、幸運にもそれで結構、構わないという回答が届いたのです。すぐに、無償の相続分譲渡証書を作成して郵送したところ、実印と印鑑証明書も無事に受領できたというわけです。
 ちなみに、相続放棄をするときは本人が裁判所に対して手続きを行う必要があります。また、手続き後には裁判所から相続放棄についての照会書が届き、本当に放棄する意思があるかどうか、その経緯についても細かな確認がなされます。否が応でも相続財産の状況を意識させられるのです。遺産争いや煩雑な手続きから離脱させたいだけ、というのであれば相続分譲渡は一考の価値ありです。


3.こんなケースでも活用

 ※お金で早期に解決!
 相続人の1人はお金に困っているようでした。金銭を少しでも早くと欲しがっており、相続手続きも煩わしい感じです。そこで、遺産分割を行って預金の解約手続きをするのでは時間が掛かるので、他の相続人が相続分を有償で買い取るのはどうかと提案してみました。結果、これも上手くいきました。実質的には代償分割と同様ですが、その後の遺産分割協議の登場人物を少なくできました。実は、他の相続人同士は仲が良かったこともあり、揉める可能性・不安要素を先に片づけておくためにも、相続分譲渡を活用して早急に済ませたかったのです。
 相続分譲渡を利用すれば、遺産分割協議に参加しない人を作り出せます。上手に話がつけられるのであれば、遺産の全容を開示せずとも、話を進めることだってできるでしょう。要は相続人の交渉力次第です。


4.第三者への譲渡はやめるべき

 相続分譲渡は、実務的には相続人間で行うことを考えます。第三者(法人含む)へ譲渡することもできますが、その場合には相続税とは別に贈与税や譲渡税の問題を考える必要があります。そもそも、相続にまったく関係なかった方が遺産分割に参加してくるのですから良いことなどありません。相続人間であればこそ、賢い利用方法にできるのです。

※執筆時点の法令に基づいております