相続税の計算にあたって非常に大きな影響を及ぼす「小規模宅地等の特例」というものがあります。この特例は、相続税評価額が最大で80%引きになる可能性があるもので、例えば1億円の評価額であったとしても課税ベースでは2千万円になる場合があるのです。
今回は、今年の話題でもある10月1日の日本郵政公社の解散と郵政民営化が、この特例にも影響を及ぼしている事柄をお伝えいたします。
特例の一つである国営事業用宅地等の特例
相続や遺贈により取得した財産のうち、被相続人等の居住の用や事業の用に供されていた宅地等があった場合、これらの宅地等は相続人等の生活基盤の維持において重要な財産であるといえます。そこで、このような事情に配慮するために相続税の負担の軽減を図る制度が用意されており、この制度を一般的には「小規模宅地等の特例」といいます。
この小規模宅地等の特例には、その宅地等の用途に応じて複数の種類が用意されているのですが、その一つに国営事業用宅地等の特例というものがあります。
国営事業用宅地等の特例の内容は?
相続財産である宅地等のうち、特定郵便局である建物の敷地の用に供されているもので、
① | 宅地等の取得者に被相続人の親族がいること。 |
② | ①の親族から相続開始後5年以上、その宅地等を特定郵便局の用に供するために借り受ける見込みであると日本郵政公社が証明していること。 |
上記2つの要件を満たしている場合には、宅地等の地積のうち400㎡までの部分について相続税評価額を80%減にできます。
したがって、対象となる地積が400㎡以下であれば相続税の課税対象は20%のみとなるわけです。
平成19年10月1日以降の取り扱い
平成19年10月1日以降は、日本郵政公社が解散してしまうことから国営事業用宅地等の特例は廃止されてしまいます。したがって、上記特例は適用できなくなるのです。ただし、土地を貸している側からすれば賃貸先が日本郵政公社から郵便局株式会社へ変更しただけであり、非常に酷ともいえるのではないでしょうか。
そこで、郵政民営化法には特別な取り扱いが盛り込まれており、次の要件を満たした場合には、宅地等の地積のうち400㎡までの部分について相続税評価額を80%減にできるように配慮がなされました。
① | 郵政民営化法の施行日前から日本郵政公社に貸し付けていた宅地等であり、当該賃貸借契約を承継した郵便局株式会社に引き続き貸し付けているもの。 |
② | 郵便局会社が相続開始後5年以上、その宅地等を引き続き借り受け、郵便局舎の用に供することについて証明していること。 |
③ | この特別な取り扱いを既に受けたことがないこと。 |
注意点
上述の郵政民営化後における取り扱いを利用すれば、実質的には従前と同じ効果を得ることが可能ですが、いままでとは異なる重要な注意点があります。
それは、
① | 平成19年10月1日以降に新たに郵便局会社と締結した契約は含まれないこと、 |
② | 上述の特別な取り扱い③に記載のとおり、この取り扱いは1回限り・1代限りの相続に限られること、 |
です。
つまり、あくまでも従前からのものに対する救済措置であり、それは1回だけという限定的な取り扱いのため注意が必要です。
これからは、郵政事業は公の機関ではなく、民間企業が実施することになります。一昔前に民営化された国鉄は、JRとして大きな変化を遂げています。これからの郵政事業に関して、税法の取り扱いも含め、今後も一層目を離せないでしょう。