消費税は、法人個人を問わず誰もが一番身近に感じる税金ではないでしょうか。しかし、うっかりすると余計に納めることになりかねない要注意の税金でもあります。そんな消費税の節税対策の一部を、オフィスビル賃貸業でその賃貸収入の全てが消費税の課税対象となる3月決算法人を前提にご紹介します。
1. 課税方法の選択をして節税を
(1) 納税額の計算方法
消費税の計算方法は2通りから選択できます。それぞれ簡単にご説明すると次のとおりです。
①原則課税
課税売上に係る消費税(A) - 課税仕入に係る消費税(B)
②簡易課税
課税売上に係る消費税(A)- (A)×みなし仕入率
不動産賃貸業の場合、②のみなし仕入率は50%となっています。一般的には、実額で計算する(B)の金額が少ないため、この50%を控除できる簡易課税の方が納税額を少なくすることができるうえに、計算が楽というメリットがあります。
(2) 簡易課税の注意点
しかし、メリットだらけのように思える簡易課税にも注意点があります。
①簡易課税は選択制で、適用したい事業年度開始日の前日までに税務署に届出をしなければならないこと
②いったん選択したら2年間適用し続ければならないこと
③基準期間(一般的に2年前)の課税売上高が5,000万円を超える事業年度は適用できないこと
④大規模な改修工事や建物の購入があった場合にも、これらに係る消費税の還付を受けられないこと
従って、簡易課税を選択してから2年間は、改修工事や建物の購入を控え、原則課税に戻してから行えばよいのです。原則課税に戻れば、(B)の金額が(A)の金額より大きくなる可能性が大きいため、消費税の還付を受けられると言うわけです。なお、本稿でいう建物は、オフィスビルに限定して考えてください。
2.課税期間の短縮を活用
簡易課税から原則課税に戻るには、やはり適用したい事業 年度開始日の前日までに税務署に簡易課税をとりやめる届出をしなければなりません。しかし、もし届出をうっかり忘れ てしまったら泣き寝入りしなければならないのでしょうか。
そのような場合も、課税期間の特例選択の届出をし、課税期間を1ヶ月または3ヶ月に短縮することにより、事業年度の途中でも原則課税に戻すことができるのです。
(2) 原則課税→簡易課税
また、原則課税は簡易課税のように2年間の継続適用のしばりがないため、改修工事や建物の購入が完了したら次の課税期間から再度簡易課税を選択することができます。
H20.8月中にオフィスビルを購入する3月決算法人が、課税期間3ヶ月を選択したとします。次の(a)~(d)の届出を下記の線表のスケジュールのように提出することにより、かなりの節税効果が得られます。
(a) 簡易課税とりやめの届出
(b) 課税期間短縮の届出
(c) 簡易課税選択の届出
(d) 課税期間短縮とりやめの届出
課税期間を短縮すると、その分申告回数が増え手続きが大変になります。こちらも2年間のしばりがありますが、2年後に短縮を取りやめ、元の1年ごとの申告に戻せばよいのです。
3. そもそも納税義務のない法人の場合は
これまでのお話は、消費税の納税義務を負う課税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円超)を前提としていました。では、もし消費税の課税対象とならない免税事業者が大規模な改修工事や建物の購入をした場合はどうでしょうか。免税事業者はそもそも消費税の申告義務がないため、そのままでは消費税の還付をうけることができません。そこで、今度は課税事業者選択の届出をしてあえて課税事業者となり、申告書を提出することにより、還付を受ければよいのです。
しかし、いったん選択をすると簡易課税や課税期間短縮と同様2年間免税事業者に戻れませんので、2年間通算で有利不利判定を行う必要があります。
さらに、住宅用建物の賃貸も併せて行っている法人や、新たに取得する建物が住宅用となる場合には、より複雑で厳密な検討が必要となります。やはり大切なのは良き専門家のアドバイスでしょうか。