遺言の方法としては、公正証書、自筆証書、そして秘密証書という方法があります。今回は自筆証書で遺言される時の注意点等をまとめてみました。
1.自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、自筆で作成したもので代筆やワープロによるものは無効となります。
日付の記載も「〇年〇月〇日」ときちんと日付が特定されなければなりません。複数の遺言書が発見されたときに、遺言書の内容が抵触している場合、抵触している部分は、日付が新しいものが有効となります。
そして、遺言書に封印をするか否かは任意ではありますが、偽造や変造を防止する観点からは封印することが望ましいと思われます。封印された自筆証書遺言は、相続人又はその代理人が立会いをして、家庭裁判所で開封し、「検認」を受けなければなりません。
公正証書遺言と違って、一般の個人の方でも、気軽に作成の出来る遺言方法ですが、間違いやすく相続発生後問題になる点を以下ご紹介します。
2.不動産の登記地番を間違える
相続財産の中に、不動産がある場合の注意点です。
不動産をきちんと相続登記するためには、登記地番が現在事項証明書(いわゆる登記簿謄本)と一致していることが必要です。基本的なことではありますが、このような記載ミスはよく散見されます。例えば、配偶者にご自宅の敷地を相続させたいと思っても、地番の記載をミスしたことにより、残念ながらこの部分の遺言は無効となってしまいます。
3.不動産の記載漏れがある
不動産の記載漏れがある事例としては、宅地を分譲開発して、私道を隣地の方と共有して所有している場合に、私道部分の記載を忘れてしまうことです。対象の宅地部分とセットで私道を相続することが、当該地の利用上最も望ましいことですが、取得から数年経過すると忘れる方が多いです。この私道は、固定資産税の課税上道路申請をして、固定資産税が非課税となっていることが多く、固定資産税の課税通知書が届かないことから、忘れてしまうようです。
4.遺留分に対するフォローがない
最も大きい問題点は、遺留分に対する考慮がないことです。民法では、遺言であっても侵せない相続人の権利として、遺留分が認められています(兄弟姉妹が相続人の場合には、遺留分はなし)。例えば、配偶者と子供2人(AB)が相続人の場合の遺留分は以下のようになります。
法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 1/2 × 1/2 = | 1/4 |
子供A 1/4 × 1/2 = | 1/8 |
子供B 1/4 × 1/2 = | 1/8 |
この事例の場合に、すべてを配偶者である妻に相続させる旨の遺言内容ですと、子供ABの遺留分を侵害している結果となってしまいます。ここまで極端ではないにしても、遺留分を侵害しているケースは多いのです。
5.遺留分の減殺請求とは
ただ、4のような事例の場合に、遺留分を侵害しているからといって、遺言が無効になることはありません。遺留分を侵害された者(子供)が相手方(この場合配偶者)に取り戻し請求が出来るだけで、これを遺留分の減殺請求権といいます。
遺留分の減殺請求権は、原則として相続の開始と遺留分の侵害の事実を知った時から1年を経過したときに、時効によって消滅します。
遺言の内容に納得がいかない場合には、遺産分割の全部やり直しということも、方法としてはありますが、配偶者がそれを認めることは現実的にあり得ません。
6.遺産分割協議が必要に!
前述の2や3のような不備があると、その部分については、遺産分割協議をしなければなりません。
ご自宅を配偶者に、と考えて遺言しても記載ミスをすると、相続人全員での分割対象となり、最悪配偶者が相続できないことも考えられます。
遺言者が、スムーズに相続手続きが進むようにと遺言書を作成しても、結局は相続人全員で遺産分割の話し合いをしなければならないのです。
7.遺言者の意思は・・・
遺言書は、遺言者の意思を確実に実現させるものであるにも拘らず、上記のような記載ミス等をしてしまうと、まったく意思が考慮されません。
相続人達で、遺産分割を行うことによりさまざまな思惑が交錯し、分割がまとまるのに非常に時間がかかることが多いのです。また、相続人間で話がまとまらない場合には、弁護士に依頼をし調停へと、更なる時間と費用がかかることが予想されます。相続税の観点からも、配偶者の税額軽減などの特例の適用が出来なくなることもあり、多額の納税が発生するというデメリットもあります。
やはり、遺言者の意思を確実に実現させるためには、税務上の問題点を考慮し解決した上で、法的に不備のない公正証書で作成することをお奨め致します。