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~小規模宅地等の特例をめぐる大いなる誤解を解消しよう~
166号

え〜っと通信

166号

2015年2月13日

二見 和美

老人ホーム入所後のその対策大丈夫ですか?
~小規模宅地等の特例をめぐる大いなる誤解を解消しよう~

 いよいよ相続税の大改正がスタートしました。基礎控除が大幅に縮小された結果、小規模宅地等の特例が使えるのか否かで納税額に大きな差が出ることになります。昨年来、「相続税対策」についてのたくさんの情報が溢れ、ご自身でも対策を研究なさる方が増えています。今回は、実際に受けたご相談で、注意が必要な事例を取り上げ、改めて小規模宅地等の特例について整理してみました。


1.老人ホーム入所後の空き家に子が転居したら? 

Q:母亡き後一人暮らしだった父が老人ホームに入所して実家が空き家になりました。私は自分で買った分譲マンションに住んでいます。父所有のこの実家の土地は高いので、このままでは相続税を納めることになるらしいのです。
 ところが、私に持ち家がなければ、実家を相続すると特定居住用宅地等に該当し、2割の評価で済むと聞きました。実家が空き家のままでは危険ですし、自分のマンションを人に貸して実家に移り住むことを考えています。
A:特定居住用宅地等に該当するための「被相続人の居住用宅地」の要件と、取得者要件である「家なき子」の規定が混同されて整理されていません。このまま実行すると、原則として、特例の適用を受けられません。


2.大前提は被相続人の居住用であること

 特定居住用宅地等として330平方メートルまでの部分が2割評価となるのは、まず、その土地が「被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等」であることが大前提です。その上で、その土地を取得した者の要件がすべて満たされてはじめて適用されるのです。
 老人ホームに入所したら、起居する生活の拠点はあくまでも老人ホームになります。もはや元の自宅は被相続人の居住の用に供されていない状態になるのです。
 しかし、老人ホーム入所中に死亡した場合に、入所直前まで住んでいた元の自宅が被相続人の居住用だと認められる場合があります。これは平成26年から明確化されたもので、次の要件を満たす場合に限ります。

相続開始時に要介護認定等を受けており、入所していた老人ホームが所定の法律に定められた施設であること
 2入所後に、新たに被相続人等以外の者が住まないこと

 2の要件があるのは、次のような理由とお考えください。空き家となった後に誰かが住んでしまったら、その土地は、後から住んだ人の居住の用に供されている土地です。もはや「被相続人の」居住用宅地には該当しないのです。一旦、空き家となったら、住む人が賃借人の第三者でも、子でも、同じことです。


3.「家なき子」は被相続人の居住用あっての規定

 このように、ご相談者が実際に空き家となった実家に移り住んでしまったら、被相続人の居住用宅地という大前提が崩れてしまいます。そうすると、いわゆる「家なき子」の要件は、まったく無関係になります。これは、被相続人に配偶者や同居相続人がいない場合に限って、その居住用宅地を取得した者についての要件であり、その宅地を取得した者自身又はその配偶者の持ち家に相続開始前3年以内に住んでいないこと等が必要です。あくまでも「被相続人の」居住用宅地を取得した者についての要件ですから、そうでない場合は、この要件は無意味なのです。


4.被相続人と生計一の親族の居住用という道がある

 原則として適用不可、と申し上げましたが、ひとつ可能性が残されています。
 実家に移り住んだ後に、老人ホームへ入所した父と「生計を一」とする状態になれば、今度は「被相続人の」ではなく、「生計一親族の」居住用宅地として特定居住用宅地等の対象となることがあるからです。
 しかし、実際には、別々の場所に起居している状態での「生計一」というのはその判断が難しいものになります。別居での「生計一」は、客観的に誰が見てもわかるよう、どちらかがどちらかの生活を全部面倒みている状態にあることが求められます。つまり、金銭面で一方がすべての生活費を負担するくらいの実態が必要です。


5.特定居住用宅地等の適用可能性は限定的

 このケースのように老人ホーム入所前は別居しており、かつ、相続人が持ち家に住んでいる場合には、特定居住用宅地等の適用は、次のいずれかの場合に限ります。

A実家の空き家状態を維持し、かつ、持ち家を処分又は賃貸にして自身が賃貸住宅に住んでから3年が経過した後に相続が発生すること
B実家に移り住むのであれば、老人ホームに入所した父親と「生計を一」とすること

 いずれも現実問題としてはハードルが高くなります。生活基盤として絶対必要な自宅には税金面で配慮します、というのが本来のこの特例の趣旨です。それが必要ではない状況にある方がこの適用を受けようとする場合には、ご自身のライフプランについて大きな決断を迫られることになるわけで、相当な覚悟が必要と心得てください。

※執筆時点の法令に基づいております