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え〜っと通信

169号

2015年5月15日

秋山 友宏

税金安夫の税務講座 

自宅建築のためのアパートの解体費用
~経費?それとも家事費?その運命の別れ道~

 賃貸建物は経過年数とともに老朽化します。税金安夫さんのお父様ご所有の木造アパートも築30年を超え、そろそろ解体をお考えのようです。
 解体費用は、建物の規模や構造で異なりますが、相当の出費になることは明らかです。これが経費になればいいのですが、さてその結末は??


1.アパートを取り壊して自宅を建てる場合

父所有のアパートですが、老朽化したこともあり空室が多くなりました。そろそろ解体を考えています。

解体して土地を譲渡するのであれば、解体費用は譲渡の経費になります。

解体後、父はその土地に私の妹の自宅を建てるようなことを言っています。解体費用ですが、アパートの建替えのための解体なら不動産所得の経費、自宅などを建てるための解体であれば経費にならないような話を聞きました。

だいぶ前のことですが、解体後に自宅を建てた場合は不動産所得の経費とならないとした解説書がありました。そのため、最近でも、税務調査でそのような指摘を受けることもあるようです。

だいぶ前??ということは、現在の取扱いは経費でいいのですね?


2.最近の解説書では・・・

まず、アパートの建替えのための解体、これは基本的に経費になります。次に解体後に自宅などを建てる場合ですが、最近の解説書には次のように書かれています。『賃貸業の廃業に係る残務処理として取壊し(解体)が行われていれば、経費で差支えないものと考えられる・・・』

父はアパートを5棟所有しています。2棟は法人へ譲渡し、1棟は解体しますが、残りの2棟は今後も個人所有で賃貸します。廃業ではないのでダメですか?

『賃貸業の廃業』、通常の言葉の用法に従えば、賃貸業をやめることを指すと解されます。そうであるとすると、お父様の場合は、賃貸業の廃業とはいえませんから、解体費用の経費算入が否認される可能性があるということになるんですかね・・・。

解体費用は約400万円ですよ。住民税と併せて税率50%なので経費になれば200万円も納税が減ります。


3.賃貸業務の終了時期はいつか

ところで、『賃貸業務の終了時期』はいつとお考えですか?

??? 賃借人が立ち退いたときですかね。

賃借人の立退きが終了した瞬間に、アパートが自宅のような家事用の資産に変わったということでしょうか?

だって、賃料収入がなくなるんですよ。

アパートを建てようとする場合、収支の予測をして、利益が見込まれないと当然やめますよね。その収支計算に解体費用は含めないのでしょうか。

そうですよね。解体費用を含めて赤字であれば建てないですよ。

一般に、1.賃貸建物を建て、2.完成後、賃貸を開始し、3.賃貸が終了した段階で解体する、これが賃貸業です。解体は賃貸業務に含めるべきですね。最近ですが、そのような考え方を明確に示した裁決(平26.12.9名裁(所)26第10)が、ようやく出たのです。


4.解体費用は賃貸業で通常発生する費用

この事案、賃貸終了後2か月程度で建物を解体しています。解体後、その土地の活用について具体的な行動を起こさなかったため、課税庁は解体費用の経費算入を認めなかったのです。これに対し国税不服審判所は、『賃貸借契約終了後速やかに行われた賃貸建物の取壊しは、貸付業務の残務処理的な行為であり、貸付業務の遂行上必要なもの』と判断し、解体費用の経費算入を認めたのです。常識的な判断だと思いますよ。

『速やかに』という点が引っ掛かります。私の妹はロンドンにいて1年後に帰国します。解体して更地にすると固定資産税が上がります。妹の自宅の着工時期に合わせて解体したいのですが・・・。

経費となるには、解体が貸付業務の一環として行われたという事実が必要です。お父様のケースは、・・・、微妙ですね。

経費になるんですか、ならないんですか、はっきり結論を教えてくださいよ!!


5.解体は賃貸借契約終了後速やかに!!

 法人の支出は原則損金(経費)ですが、個人の支出は家事費と経費に分かれます。家事費とは、簡単に言えば業務に関係のない支出とお考えください。賃借人の立退き後、空き家で放置すると、その放置期間の経過とともに建物が貸付用から貸付用以外(家事用など)に転用したと判断される可能性が高くなります。貸付用以外と判断されると解体費用は経費になりません。次に建築する建物が自宅か賃貸かにかかわらず、着工まで時間がかかるようでしたら、賃貸建物は速やかに解体し、一時的に駐車場などにしておくのがよいでしょう。
 個人所有の賃貸建物の解体は、賃貸契約終了後、できるだけ速やかに行っていただきたいものです。

※執筆時点の法令に基づいております