税務上、様々な問題を含んでいる事項の一つに『名義』があります。名義いかんによっては、思わぬ課税関係が生じることがあるのです。確定申告もいよいよ後半戦。申告内容と名義が一致しているかどうか、今一度、注意が必要になるかもしれません。
1.3月15日までなら直せます
夫婦共有でマンションを購入しました。深い考えもなく、1/2ずつの持ち分登記。これは税務上、何を意味するのでしょうか?持ち分を登記する事は、それに相当するお金を用意した、と言うことなのです。このケースで言えば、自己資金であれ借入金であれ、夫婦それぞれが半分ずつの資金を用意した事を意味するのです。
もし、名義と資金出所が一致していなければ、その一致していない分は贈与があったものとみなされます。ギクっとした方、ご安心下さい。3月15日、つまり確定申告の最終日までに登記を直せばよいのです。錯誤登記という手法で解決できます。
2.ペイオフも要注意!
いよいよ4月から定期性預金のペイオフが解禁予定です。預金名義人毎に名寄せをし、元金1千万円とその利息を超える部分は保証の限りではありません。それなら、ご主人名義の預金を妻、子供2人の計4人にすれば、4千万円は安心なのでしょうか?確かにそうです。が、税務署はこんな時、ご主人から奥様や子供らへ贈与があったことになりますよ、と脅かします。そうか、贈与税がかかるなら、ここはひとまず撤退で、元の名義に戻しておこう!
3.税務署得意の二枚舌
さて、前述の例で税務署の脅かしにもめげず、妻名義の預金のまま10年が経過。幸いに贈与税の課税もなく、夫の相続を迎えました。妻名義の預金、奥さんの認識では7年バレず、贈与税の時効が完成です。晴れて預金は自分のもの。
しかし、一筋縄では行かないところが税務署です。今度はこんな事を言うのです。“奥さん、専業主婦でご自身の収入はなかったのでしょ。あれは奥さんの名義にはなっていても、実質ご主人のものです。つまり、相続財産として計上しなければならないものなのです”と。これが、このATO通信でも何回かお話した名義預金なる代物 (しろもの)です。
名義を借用した時点では贈与だと言い、相続の時は単なる名義預金なのだから、相続財産だと宣( のたま ) うのです。何たる二枚舌! ただ、これは税務署という役所の本質的な性格で、建前はともかく、要は税金を取り立てる役所なのです。調査の時は、あの手この手で課税することだけを考えているのです。こんな時、安易に妥協してはいけません。相手は税務署。外務省ではないのですから、大声で恫喝( どうかつ ) せず、理詰めで応戦しましょう!
4.奥の手、過年分も修正して誠意を示そう!
この時期、毎年1~2件使う苦し紛れの奥の手をご紹介します。誤解の無いよう申しあげておくと、駆け込みの新規のお客様です(つまり、当社の不手際ではない!)。
AB二人の借地人(借地権は共有)の方が、下図のように隣接する甲地、乙地に共有で2棟の貸し家を共有で持っていました。2棟の家賃は若干違うのですが、本来2棟分の合計額を二人で均等に申告すべきです。しかし、何年間も甲地の貸し家はA、乙地の貸し家はBの名で申告をしてきました。
この度、地主との間で土地の交換をし、互いに完全所有権の形態に変更することに。借地権はAB二人の共有のため、従来の申告の仕方ではそれが反映されておりません。そこで、本年分の申告は本来の形で行うと共に、過年分についても訂正です。Aは減額、Bは増額の申告になります。増額分は問題ないのですが、減額については原則的には1年分しか訂正ができません。こんな時は嘆願書と言う形でお願い申しあげるのです。お二人通算では増額になるのですが、仮に減額分は認められなくても無理を言う以上、ここは遡 ( さかのぼ ) って直すのが誠意というもの。この例を含め、こんな形で過去を訂正すれば、何とかなることが多いのも実務なのです。
法律的な意味も含め、名義は重要です。色々な便法はあるものの、強いのは真実。たかが名義、されど名義で様々な場面で要注意です。