2020年のコロナショックで上場株式の譲渡損失が発生したものの、2021年は株価が回復し、多額の譲渡益が出た方もいたと思います。そんな方が確定申告で2020年の譲渡損失を2021年の譲渡益と相殺するための申告をしたところ、基礎控除がゼロになってしまいました。果たして、これは何故なのか。基礎控除が無くなっても、譲渡損失を相殺するメリットがあるのか。今回は、数字を用いて具体的に検証してみたいと思います。
1.2020年は株式の譲渡損失発生、2021年は譲渡益発生
Aさんは、2020年にコロナ関連で所有株式が暴落し、損切のため一部売却し、200万円の譲渡損失が発生しました。その後、他の値下がりした株式を取得し、2021年に株価が回復したころで売却し、900万円の譲渡益が発生しました。
2.確定申告において税金還付を目指す
上場株式を特定口座(源泉徴収選択口座に限る。以下同じ)で譲渡すると、譲渡益については税率20.315%で所得税と住民税が徴収されます。一方、譲渡損失については、確定申告をしてその損失を翌年以降に繰り越しておきます。翌年に譲渡益が生じると、確定申告において繰り越した譲渡損失と相殺することができ、譲渡益に対して徴収された所得税と住民税の還付(控除)が受けられるためです。Aさんも税金還付を目指して確定申告で申告手続きを進めていくと、48万円の基礎控除がゼロになりました。
3.基礎控除の改正
基礎控除は、2020年分の所得税から下表のように改正され、合計所得金額が2,500万円を超えるとゼロになってしまいました。
4.合計所得金額とは
Aさんは、前年の譲渡損失との相殺のため特定口座の900万円の譲渡益を申告した結果、合計所得金額が2,500万円を超えてしまったため、基礎控除がゼロになってしまいました。具体的に数字を用いて検証すると以下のようになります。
<Aさんの合計所得金額>
総所得金額(不動産所得+給与所得)1,900万円 + 株式譲渡所得900万円(譲渡損失相殺前)
= 2,800万円 > 2,500万円
合計所得金額とは、総所得金額に分離課税である株式や不動産の譲渡所得等を加えた金額で、その年の所得のみで計算します。そのため、分離課税である株式の譲渡所得がプラスされたことによって、本来1,900万円であった合計所得金額が2,500万円を超えてしまったのです。
5.基礎控除がゼロになっても譲渡損失の相殺をする?
基礎控除がゼロになってしまい、所得控除が減り課税所得が増加してしまうが、本当に株式の譲渡損失を相殺する申告をした方が良いのか、以下検証してみましょう。
6.譲渡損失相殺前の税額
Aさんの総所得金額 1,900万円
所得控除合計 △248万円
課税総所得金額 1,652万円
所得税額 3,997,827円
住民税額 1,657,000円(住民税の所得控除は243万円)
合 計 5,654,827円・・・(1)
7.譲渡損失を相殺するため譲渡益を申告する場合の税額
Aさんの総所得金額 1,900万円
所得控除合計 △200万円
課税総所得金額 1,700万円
課税総所得分の所得税額 4,159,554円
〃 住民税額 1,700,000円
合計 5,859,554円・・・(2)
<分離課税分>所得税及び住民税で20.315%
2020年の株式譲渡損失 200万円
2021年の株式譲渡益 900万円
相殺後の2021年譲渡所得 700万円
(A)700万円×20.315%=1,422,050円
(B)900万円に対する源泉税20.315%=△1,828,350円
(A)+(B)=△406,300円・・・(3)
総合及び分離課税の税額合計(2)+(3)=5,453,254円・・・(4)
8.税額比較すると
上記税額比較をすると、Aさんは株式の譲渡損失と譲渡益を相殺して申告した方が有利になります。
(1)-(4)=201,573円有利
基礎控除の48万円が減りますが、それ以上に譲渡損失の相殺分に対する税額減少の方が大きくなるためです。
9.あくまで一例です
Aさんのように特定口座の多額の譲渡益を申告して譲渡損失と相殺をしてもメリットがあるというのは、あくまで一例です。所得税は、所得が増えるほど税率が上がります。基礎控除減少分に対する税額増加分と、上場株式の譲渡損益の相殺による源泉税の還付分とを比較してケースバイケースの結果になります。また、確定申告を行い所得が増加することによって、社会保険料が影響を受ける方は、その増加分まで見込んで有利不利を選択する必要がでてきます。控除ひとつみても複雑怪奇な所得税。判断に迷ったときは、是非当税理士法人へご相談を。