“America was discovered by Columbus.”という有名な英語の例文がある。英語の受動態の例として、中学生の頃習った方も多いに違いない。 だが、アメリカ大陸がコロンブスによって「発見された」というのは、果たして「世界の常識」だろうか。コロンブス以前にアメリカ大陸に住んでいた人間にとっては、アメリカ大陸を「発見」したのは、生まれたそのときであっただろう。原住民ではなくとも、コロンブス以前にアメリカ大陸を見たことのある漁民、漂流民、海賊等はヨーロッパ側にも、アジア側にも多数存在したと思われる。
では、何故コロンブスのアメリカ発見だけが、世界史上の大発見であるのか。それは、コロンブスの船団が「国家」の事業としてスペイン国王のスポンサードの下で航海し、アメリカに至ったからなのである。実際に、彼がアメリカ大陸に至ったのは、日本では室町時代の終わり頃のことである。この頃のヨーロッパ人の「国家」の認識は、近代国民国家というのとは若干異なるが、ともあれ、人間の住む「未開の」大地が、ヨーロッパ国家のプロジェクトによって「発見された」のである。以後、「未開の」大地には欧州諸国家の移民が押しかけ、先住民を理由なく殺戮し、奪った土地に旗を立ててコロニーを建設した。
「国家が」「他の国のものではない土地を」「発見して」「旗を立てた」ら、その領土は旗を立てた国家のものとなる。現在に至るまで、この国際法の「発見」原則は、(明確には)変わっていない。英領のフォークランド諸島(アルゼンチンとの間に領有権の争いがあった)、日本の小笠原諸島などは、皆この原則を領有権の根拠としている。
一方で、かつて合法とされたアメリカのハワイ併合、日本の琉球処分など、武力にモノを言わせ、恫喝とも言える手段で、国家の領土を「他の独立国に」拡張することは、今日の国際法規では認められていない。また、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、中国、ロシアなどの一部に住む先住民達は、2007年の国連宣言でその権利がかろうじて認められた。が、それらの先住民が元から住んでいた広大な領土は、(ハワイや沖縄も含め)既成事実として他者のモノとなってしまっている。実際問題として、アメリカに住んでいる欧州系の白人、北海道のヤマト系日本人、オセアニアの英国系白人などに、今更「先祖の国に戻れ」とは言えないという事情があるからである。その「今更」を狙って、戦争で占領したパレスチナに植民を続けるイスラエルのような国もある。
さて、我が国は中国との間で尖閣諸島、韓国との間で竹島、ロシアとの間で南千島四島の領有権を巡って主張が対立している。これらを巡る日本の主張の根拠は、「発見して旗を立てる」ルールにある。要約すれば「先に旗を立てた国家は日本だ」というのが日本の主張である。一方で、近代というものが始まってからその恩恵をほとんど受けず、他から侵され続けてきた中国や韓国の人達は、第二次世界大戦後の国際秩序が、国際法の「発見」原則を変えたと理解しているところがある。はたして、国際法の原則はどこまで変わったのか。それを試すには、国際司法裁判所でこれら領土問題の決着を図るしかない。