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今月の言葉

2017年5月1日

終身雇用 年功序列

 第二次世界大戦が始まる1940年頃、日本経済は従来の自由な資本主義経済から、当時の言葉で言う「統制経済」にシフトした。いわゆる「1940年体制」の始まりである。この経済体制は、資本主義の基盤を維持しながらも、その構造の上に計画経済、資本と経営の分離、社会福祉、貯蓄の奨励と資金の重要産業への傾斜配分といった社会主義的な要素を導入し、「国家総力戦」「総動員体制」を構築し、世界大戦への参加を準備しようとするものであった。だが、この統制経済体制は敗戦後も維持され、日本の戦後復興は、この資本主義と社会主義の混合経済によってなされた。

 さて、戦後も続いた「1940年体制」の一つの大きな特徴が、終身雇用と年功序列である。  終身雇用制度とは、社会の大多数の労働力が、正社員としてどこかの企業に所属し、しかも定年までほぼ転職しないという制度である。この制度は、多くの労働者にとって生活安定と労働意欲喚起に役立ったが、一方でこのことが可能であったのは、国全体が高度経済成長を謳歌し、あらゆる企業が一定の成長を約束されていた故であって、1990年代バブル経済の崩壊を契機に、企業そのものが倒産や再編、あるいはそれほどではないにしてもリストラクチュア(「構造の再編」という意味だが実態は減員、首切りのこと)に直面すると、殆どの労働者が定年まで一つの企業に勤務するなどということは不可能となり、労働市場は悪い意味で流動化、自由化した。簡単に言えば、社会のかなりの割合の労働者が、非正規雇用、つまり「終身雇用の正社員」ではなくなったのである。

 一方で、終身雇用制度と対になった日本特有の賃金制度が、年功序列型賃金である。この賃金制度は、概ね勤続年数に並行して賃金が等差級数的に増加していくというもので、職務給(役職手当)や職能給(上司による能力評価部分)はごく僅少、補助的な割合を占めるに過ぎなかった。労働者は入社すると、終身雇用制度の下で、能力の有無を問わず、毎年少しずつ昇級し、数年以内の差で管理職となり、子供が生まれて学校に行き家庭でお金がかかるのにほぼ並行して消費需要を満たす賃金を得られる仕組みとなっていた。この制度の末期には、役職定年と言って、定年前に数年ヒラに戻って賃金が少しだけ下がる制度に修正されたが、これとて親がその年齢になる頃には子供が独立しているだろうと考えれば、労働者にとってそれほど困る話ではない。

 ところが昨今、社会で無視できない割合の労働者が非正規雇用となり、この人々の賃金が正社員に比較して著しく低く、昇給もしていかないという現象が起きてきた。このままでは、正規雇用と非正規雇用で、一種の階級差が生じ、国内に大きな葛藤が起きるのは必然である。しかも、実際には有能な非正規労働者が、低い賃金で、高給の正社員より優れた仕事をする例が多く見られる。そこで、世界の標準である「同一労働、同一賃金」制度を導入しようと政府が言い出した。しかし、約70年の間慣れ親しんできた「終身雇用、年功序列賃金」の常識から、企業も労働者も脱却するのは簡単なことではない。そこで、来月は、これからの時代の日本に相応しい、雇用・賃金制度について考えてみようと思う。