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TOP今月の言葉民主主義その1 2022年08月

今月の言葉

2022年8月1日

民主主義その1

 今月は、「民主主義とは何か」ということを書こうとしている。

 世に「我田引水」という言葉があるが、この世の大半の国々は自らが民主主義であることを標榜している。本来民主主義とは相容れないはずの君主制国家、たとえばイギリス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーそして日本やタイなども皆、自らの政体は民主主義であると主張し、さらに言えば、自らは民主主義の卸元であるとさえ思っている。一方で、○○民主主義人民共和国の類の共産主義諸国も、あるいは独裁者を戴く全体主義諸国も、「自分が民主主義の極みだ」と主張している。そこでいくつかのキーワードを探りながら、「民主主義とは何か」ということを探っていきたい。

「デモクラティアとアリストクラティア」
 デモクラシー(英語)の語源は、ギリシア語のデモクラティアである。この語は人民(デモス)と権力(クラティア)を併せた造語である。これの反対語は貴族(アリスト)と権力(クラティア)を併せたアリストクラティアである。まあ、市民政治と貴族政治とでも訳せばわかりが良い。都市国家の広場に市民権を持つ市民(男性のしかも全部ではなく資格制限があるのが常態であった)が集まって政治を議し投票で物事を決めるのがデモクラティアで、最初から政治を取り仕切る資格のある家族(貴族)が決まっていて、それら貴族の合議で決め事をするのがアリストクラティアであった。

「ビューロクラシー」
 前記造語の発展型として「ビューロクラシー」(英語、「官僚政治」のこと)という言葉もある。ビューロは官僚、役人の意味があり、一定の規範を持つ官僚集団が政治を取り仕切る形態を「ビューロクラシー」と呼んだ。たとえば、古代東アジアの科挙を基盤とした官僚政治などもデモクラシーの反対語として扱われる場合がある。さらに官僚政治の発展型として20世紀社会主義諸国の「ノーメンクラツーラ」(党官僚)による政治も、実態は党官僚という名の「赤い貴族」の政治に近く、デモクラシーの反対語としても良いかもしれない。

「代議制民主主義と直接民主主義」
 デモスクラティアは、はじめ都市国家の広場における民会が決定機関であったので、やりかたとしては直接民主主義に近かった。が、だんだん市民権を持つものの範囲が拡充されると、民会や直接投票ではものごとを決める手段として不便になってきたので、議会乃至は類似の代議機関をつくって、「市民の意志」を反映させるようになった。これを以て代議制民主主義と呼ぶ。たしかに、議会は市民権を持つものの選挙によって成り立つので、貴族政治や官僚政治に比べると「市民の意志」には近い判断ができるように見える。が、常設の議会は時間が経つとそれ自身が特権(あるいは利権)集団に堕ちる場合があり、必ずしも民主主義の守り神とは言えなくなってしまう場合もある。

 なお、社会科の授業風に言えば、今日世界の民主主義の大半が代議制で運用されているが、国家レベルではスイスがかろうじて民会、直接民主主義の残滓を保っているらしい。また、各国憲法に内蔵されている国民投票のメカニズムも、やや直接民主主義の要素が代議制の中に残っている証拠とも考えられる。

 上記は、民主主義の種類や発展の形態に関する、「おさらい」であって、まだ「民主主義とは何か」の考察に行き着かない。そこで来月号も引き続き本題を続けることにする。