土地を贈与するとします。その土地をいくらで見るかは、相続税法上の時価、と言うことに。贈与税は相続税法に規定されているからです。さて、何かの都合で今は安いこの土地が、突然価値ある土地となり、高額に化けると分かって、直前に贈与したらどうでしょう。従前の安いままの価格で贈与できるのでしょうか?世の中にそんな上手い話があるかどうかが本日のテーマです。
1.贈与時の時価が原則です。
贈与財産の価額は贈与時の時価とされています。しかし、税法は総てについて具体的な評価方法は定めておりません。そこで、実務上の指針となるのが『財産評価基本通達』で、一般にも公開されているものです。土地については、市街地等では路線価が、路線価が付されていない場所では倍率方式が基本です。路線価方式は既にお馴染みのもの。定められた路線価を元に、間口や奥行き等を考慮して評価です。倍率方式は固定資産税の評価額を基に、単純に規定の倍率を乗じたもの。極めて大雑把な評価方法です。
2.突然、価値が増大する局面での贈与
さて、ある日降って湧いたように地上げ、隣地買収等の申し出が。何と相当に高額な買い取り価格を提示されたとします。今までは二束三文の土地、高く買って貰えるとは嬉しい限りです。ここで相続対策を兼ねて一計を案じます。このまま売れば確かにお金は入るものの、結局相続税でお国のものに。売却前に子に贈与したらどうでしょう?今なら土地の評価額、どうせたかが知れたもの。贈与税も大した負担にならずに済み、それを子が売ればお金は子供に。が、小心者の私、俄にこんな疑問がフツフツと湧いてきます。高く売却できると分かっていながら直前に贈与。贈与税の価格は従前の低い価額でなく、高額な買い取り価額と税務署は言うのではないか?第三者が買いたいと言った価額が、正しくその時点での時価になるのではないか?
それが善良な市民、見上げた納税者と言うものです。しかし、ここは焦らず理論的に考えましょう。
3.親子間では贈与であって、売買ではない!
今、親子でやろうとしているのは贈与です。贈与税の課税はあくまで贈与時点での時価。その時価は『財産評価基本通達』で計算すればよいことに!
確かに売ればもっと高く売れるでしょう。それは売却という、所得税法上の時価ではないのか?贈与税という相続税法上の時価とは違ってもいいのではないのか?
そうなのです。一口に時価と言っても色々です。同じ時期での同じ土地であったとしても、時価の考え方は違うのです。税務の世界では、公示価格というものが売却する際の時価と言うことに建前上はなっています。しかし、相続税法は土地を公示価格で課税したら、担税力の観点からも、また評価の安全性を担保する観点からも問題が残る。そのため公示価格の概ね8割相当を路線価と定め、その価格で課税する事になっているのです。
つまり、売却すれば多分、相当程度の確実性をもって高い価額で売却できても、それは実際に売却してみて初めてその価格が実現するもの。贈与する際の時価とは考えなくてもよいのです。但し、親子間でその後の高額買い取りを前提に、売買する場合はそうはいきません。多分売れるであろうその金額が時価になってしまうのです。また、贈与ではあっても、その贈与以前に実際の売買契約があったのでは、従前の安い金額での贈与は難しいでしょう。
4.ある時は財産評価基本通達、ある時は“時価”
例えば相続税の申告で、土地がAB2ケ所あったとします。Aは財産評価通達がBは鑑定による価格が有利なら、それぞれ異なる方法(Aは通達Bは鑑定)で評価しても良い事は、ご存じの方も多いはず。それと同じような考え方で良いのでしょう。前述の例で、直後に買い取られる高額な金額を贈与税の評価額として申告したら、税務署は高過ぎる、と言って減額更正するのでしょうか?そんなことは太陽が西から昇ることがあってもあり得ません。
それはそれとして、税務署は納税者に有利な選択を許しておいていいのでしょうか?ある時は通達、ある時は鑑定等による時価など許されるのでしょうか?全く問題はありません。考えてもみて下さい。何を以て評価をしても、決して税務署が損をすることはないのです。仕入れ値段はないのですから。
そして税金とは、いつの世も時の権力者の都合によって、『有り難う』も言わず、単に召し上げるだけのものなのですから。