相続人ではあるものの、遺産の状況次第によっては相続放棄を考えたい方もいます。借入債務が心配だ、煩わしい相続手続きから離脱したいなど、その理由は様々でしょう。
でも、ちょっと待ってください。相続放棄は自分のことだけではなく、他の相続人へ大きな影響を及ぼすことはご存知ですか?
1. 相続放棄の効果
相続人が相続放棄をすると、その相続人は当初から相続人では無かったことになります。その相続人は、そもそも最初から存在していなかったのだと考えると分かりやすくなります。そのため、相続放棄の影響により相続人となるべき対象者が変わってしまうことがあるので注意です。
それでは、誰が相続人となり得るのかを確認します。被相続人の配偶者は必ず相続人です。配偶者以外の方は、①子、②親、③兄弟姉妹の順番で相続人になります。
下図の親族関係図で整理してみます。
・その1 原則
⇒相続人(法定相続分)は、配偶者(1/2)、子1(1/4)、子2(1/4)
・その2 子1が相続放棄
子1は存在しなかったことになるので、子は子2のみとしてカウントします。
⇒相続人(法定相続分)は、配偶者(1/2)、子2(1/2)
・その3 子1及び子2が相続放棄
第1順位の子がいないため第2順位を考えますが、父母は既に他界しているため第3順位の兄が相続人になります。
⇒相続人(法定相続分)は、配偶者(3/4)、兄(1/4)
配偶者以外は第1順位から考えていき、先順位の人がいなければ次順位が相続人になります。自分が相続放棄したからそれで終わりではないのがミソです。したがって、相続放棄をすると、兄弟姉妹が相続人に浮上する可能性だってある!ということです。
2. 遺留分にも影響する!
相続放棄をすると、相続人が変わる可能性があるという点は理解されたかと思います。ただし、注意すべき点はこれだけでは無いのです。法定相続分が変わってしまうことにより、それが遺留分に影響を及ぼす方がよっぽど重要かもしれません。
先のその2のケースは、一見すると何も問題が無いように思えますが、被相続人が次の遺言書を遺していたとします。「配偶者に全ての財産を相続させる」
配偶者と子1は円満な仲ですが、子2とは険悪な関係で、子2からは遺留分侵害額請求がなされるとします。
ここで子1が、相続争いに一切巻き込まれたくないとして相続放棄をするとどうなるでしょう。子2の相続分が増加(1/4→1/2)して、結果は遺留分も増加してしまうのです。(遺留分1/8→1/4)
子2は棚ぼた的に権利が増え、子1の行為は相続争いに油を注ぐような結果になってしまいました。子1は何もしなければ良かった?のかもしれません。
3. こんなケースがあった
相続人は、長男、長女、次女の3名でした。被相続人と長男は生前とても仲が悪かったこともあり、「ほとんどの財産は長女へ相続させる」、という内容の遺言書を遺していました。次女は遺言内容に異論はありませんが、長男と何らかの話し合いが生じる可能性を排除したいため、相続放棄を望んだのです。しかし、次女が放棄をしてしまうと、長男の遺留分が増加してしまうことに気付きました。長女に迷惑を掛けることになるからと、仕方なく相続放棄を諦めたのでした。
4. 影響を見極めよう
相続放棄をすると法定相続分や遺留分に影響を及ぼしますが、相続税ではどうでしょう。結論は、相続税の総額の計算には影響を及ぼしません。税法では、相続放棄をした方がいてもその放棄は無かったものとして、相続人の数や基礎控除の計算をします。相続放棄により相続人数が変わってしまう、相続税の総額が増減してしまう、のでは公平性が保てないからです。このように相続税では大きな影響が生じないからといって、安易に相続放棄を行うのは考え物です。他の相続人はどうなるのか?自分が引き金を引いたがために争いが助長されてしまった!とならないように、しっかりとその影響を見極めることが肝要です。