同族会社の後継者以外の方にとって、相続財産の中で換金が難しく扱いに困りがちな財産とは?その一つが同族会社の非上場株式です。通常、株式は相続財産として配偶者や子供に引き継がれます。後継者は会社の株式が相続により分散すると買い取りや贈与でまとめる必要が出てきます。また、後継者以外の方にとっては相続したものの、相続税等の税金がかかるだけの財産になってしまうことも少なくありません。手放したい場合はその会社の後継者か、その会社自身に引き取ってもらう必要があります。そこで今回は非上場株式を発行会社に売却した場合にかかる税金をご説明させていただきます。
1.非上場株式の譲渡の概要
前提として、創業以来資本関係に変動はなく、資本金や利益剰余金が十分にあり株主は親族で占められている非上場の同族会社で考えます。
最初に通常の株式の売却を考えます。一般に株式の譲渡は、収入金額から取得費(取得時の金銭等の払込み金額)と譲渡費用を控除した残額に対して、約20%(所得税・住民税)の税率を適用します。親族で引き継いでいる非上場株式は、相続や贈与で移転していることが多いので、実務的には出資金額が取得費となる事が多いです。
次に個人の株主が、発行元の同族会社に時価で売却するケースを考えます。この場合は、出資金額に対応する部分とそれを超える部分で取り扱いが変わります。
出資金額に対応する部分は、会社は同額を資本金等から取り崩して支払い、出資した金銭の払戻しになりますので、課税関係は生じません。一方、出資金額を超える部分については、所得税法上、会社からの配当とみなされるため、配当所得(みなし配当課税)として扱われます。非上場株式の配当所得は総合課税となるため、最大で約55%(所得税・住民税)の税率が適用されます。
同族会社への売却の課税関係をまとめると下の図のようになります。
2.みなし配当が適用されない特例
相続等により取得した株式については、株式の分散化を防ぐ趣旨から、次の特例が設けられています。
「相続開始の翌日」から「相続税の申告期限から3年経過日」までに一定の要件を充足して発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されません。すべて通常の株式の売却と同じように譲渡所得として約20%の税金が課され、課税関係が終了することになります。また、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例も適用できます。他の所得との兼ね合いもありますが、保有する希望のない非上場株式については、相続直後に発行会社に売却をすると税負担の面で有利になることがあります。
3.譲渡時の課税関係の注意点
株式を時価ではなく、無償又は著しく低い価額で発行会社へ譲渡した場合はどうなるのでしょうか。
(1)売主個人の課税関係
まず売主個人の譲渡の課税関係を考えますと、会社から受け取る金額が時価の2分の1未満の場合
は、所得税法上、低額譲渡の規定が適用され、時価で譲渡したものとみなされます。
したがって、割安でも良いからと時価の2分の1を下回る金額で譲渡すると、次のようになります。
【例】
時価10,000万円(出資金相当額1,000万円)の株式を4,000万円で譲渡した場合、
4,000万円-1,000万円=3,000万円」(配当所得・総合課税)となります。
更に時価で譲渡したものとみなされるため、
「(10,000万円-3,000万円)-1,000万円=6,000万円」が株式の譲渡所得として税金が計算されます。
この様に場合によっては高い税金を支払うことになりかねませんので注意が必要です。
(2)既存株主の課税関係
会社が時価より低額(無償含む)で株式を買取ることで、既存株主は出資持分の増加という利益
を享受することとなります。この場合は、既存株主にも課税関係が生じます。
【例】
株式の時価総額10,000万円(発行済株式5株、一株当たり株価2,000万円)の株式のうち、1株を同族会社が無償で取得した場合、
既存株主の株価は、10,000万円÷(5株-1株)=2,500万円となります。
無償取得前後で株価が500万円増加し、出資持分も増加しています。売主以外の既存株主が一人の会社の場合は、500万円×4株=2,000万円の経済的
利益をその既存株主が得ることになり、この利益に対して贈与税がかかります。
4.補足
一般に第三者が相手の取引であれば合意した価額が時価とみなされます。しかし、同族会社との取引においては、市場が形成されていないため、国税庁の通達を基に算定した株価を税務上の時価とみなして税金を計算します。
株式に関する税制は非常に複雑であり、今回の事例の様に単純なものだけではないため、ご興味がある方は是非弊社にご相談下さい。