土地は、路線価から計算する相続税評価額よりも高い金額で売買されることが多くあります。
土地の売買契約を締結した後、残代金決済と引渡しが完了する前、土地名義が売主のまま相続が発生したとします。この場合、相続税はどのようになるのか。事例にあてはめて被相続人が売主のケースと、買主のケースに分けてご説明します。
1.事例
被相続人が、土地を相続税評価額の2倍の金額で売買契約を締結し、手付金3,000万円を受け渡した段階で相続が発生したとします。
・土地の相続税評価額…1億5,000万円
・売買代金…3億円
・手付金…3,000万円
・残代金…2億7,000万円
なお、残代金決済と引き渡しが完了していないため、土地名義は売主のままです。
2.被相続人が売主のケース
(1) 相続税の取扱い
売主の相続財産は、売買契約に基づく譲渡金額のうち相続開始時における未収金(=残代金)になります。
事例では、相続財産は土地(1億5,000万円)ではなく未収金(2億7,000万円)です。他に被相続人が受取済みの手付金3,000万円も相続財産になります。このケースでは、売買契約締結のタイミングで相続財産が1億5,000万円増えることとなります。
(2) 考え方
土地名義が被相続人のままなのに、相続財産を土地として路線価評価できないのはなぜでしょうか。
売主に相続が発生した場合、売買契約中の土地は、名義が被相続人のまま所有権が残っていても、相続人は残代金を受け取るのと引き換えに土地を買主に引き渡さなければなりません。相続税では、売買契約中の土地が主に残代金を確保するためのものだから、相続財産の種類を土地として路線価評価するのではなく、未収金(債権)とすべきと考えられています。
(3) 小規模宅地の特例適用について
居住の用や事業の用に供されていた土地に適用される小規模宅地等の特例は、土地等の売買契約中に相続が発生した場合、相続財産が未収金になるため原則として適用することができません。
3.被相続人が買主の場合
被相続人が買主だった場合の相続財産はどのように考えればよいでしょうか。
(1) 相続税の取扱い
買主の相続財産は、原則として、売買契約に係る土地の引渡請求権という債権となり、その財産取得者の負担すべき債務が相続開始時における未払金になります。つまり、純財産は、引渡請求権と未払金との差額になります。
例外として、買主は、所有権移転の有無にかかわらず、売買契約中の土地を相続財産として路線価評価して申告することも認められています。申告する相続財産の選択の仕方で大きな差が生じますので、ご注意ください。
(原則)
事例では、相続財産は引渡請求権3億円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の3,000万円が純財産になります。
(例外)
事例では、相続財産は土地1億5,000万円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の1億2,000万円が純債務になります。
(2) 小規模宅地の特例適用について
相続財産を土地として申告する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することができます。
4.売買契約のタイミングは慎重に
相続直前に土地を譲渡すると、売主の相続財産が土地から譲渡代金に変わるため、相続財産が膨らむケースが多くあります。売買契約中の相続でも、上記のように膨らむことがあり得ます。土地の売買は高額になり易いので、売買契約締結に当たっては、資金需要や使い道を考えた上で慎重にタイミングを検討することが必要と考えます。被相続人が土地の売買契約を締結中であった場合は、必ず税理士にお伝えください。