相続税をにらんで、万全な対策をしているつもりのお客様がいました。でもお話をうかがっている内に???同族法人に借地権があるか無いかをめぐって誤解があったのです。この問題、実は結構複雑で税理士も間違いやすい項目のため、今回は確認の意味も含めて再検討してみましょう。
1.底地と借地権の評価上の関係
まずは、相続税法における底地と借地権の評価上の関係について確認をしておきます。原則としては、底地と借地権を合計して100になると考えます。つまり借地権割合が70なら底地は30、60なら40と言う具合です。初めに借地権ありきですが、このお客様、地主さんの立場から、他人ではなく同族法人を利用して借地権部分を移転させ、ご自身の土地は評価の低い底地にしようと工夫をなさったのです。
2.借地権に係る権利金の認定課税
個人の土地を利用して、法人でゴルフ練習場を経営なさっておられました。法人が個人の土地上に建物を建てる場合、都会なら法人は権利金の支払いが必要です。同族間の特殊関係を利用して支払いを免除されれば、ただで貰ったものとされ、権利金相当額の受贈益の課税(権利金の認定課税と言う。)をされてしまうのです。それを避ける方法はあるのですが、この会社、実は15億円もの多額の赤字を工夫をして創出しており、これを利用しました。つまり、権利金を支払わず、借地権を無償で個人から贈与して貰い、本来課税されるはずの金額を15億円の赤字の範囲で相殺したのです。
3.税法により異なる『借地権』の性格
こうしてこの法人、決算書にも借地権が堂々と計上され、お客様も相当額の相続税対策ができたと満足しておられたのです。
さて、確かに法人の決算書には借地権が載ってはいるものの、これだけで本当に個人の土地は評価額の低い底地になるのでしょうか。実は、一口に借地権と言っても、税法によりその性格が異なるのです。相続税法での借地権は民法上の考え方と同じです。つまり、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権を言います。これに対し法人税ではもっと範囲が広く、単に地上権または土地の賃借権を言うため、かならずしも建物の所有を目的とする必要はないのです。
4.ゴルフ練習場の借地権
ここで考えるべきはゴルフ練習場という場所の性格です。土地上にクラブハウスの建物は確かに存在します。しかし、土地の大半には建物が建っているわけではなく、人工芝で覆われ高いフェンスに囲まれているのです。もう一度確認します。法人税では建物の存否は問わず、単なる地上権または土地の賃借権のことを借地権と考えているのです。従って、ゴルフ練習場には法人税法上の借地権は存在します。しかし、だからと言って、相続税法で言う借地権があることにはならないのです。逆に相続税では建物の存在が前提となっています。確かにその土地上に部分的にクラブハウスはありますが、土地全体で考えた場合、芝生部分が主でクラブハウスは従の関係です。そのためクラブハウスの敷地部分を含め、相続税法上の借地権は存在しないことになってしまいます。つまり、土地の評価はご期待通りの底地にはならないのです。
5.”目が点”になってしまったお客様の対応策
上記をご説明したところ、初めは信じていただけませんでした。何しろン十年かけてやってきた相続税対策です。ゴルフ練習場の経営も苦しい中で、借地権のために今まで継続して頑張ってきたのです。この話を聞いて、一気に経営継続のお気持ちが萎えてしまったようです。
しかし、物事は考え方一つです。相続を待って評価で得をしようと思うから期待通りにならないのです。法人税法上の借地権は有るのですから、今の時点で練習場を廃業し、土地を売却したらどうでしょう。配分の仕方はあるにせよ、土地価額の大半を占める借地権部分は法人のもの。経営不振のおかげで累積赤字はそこそこあり、売却益との通算も可能です。余剰があれば、税負担の少ない退職金だって考えられます。個人は底地部分に20%の課税ですが、事業用資産の買替えで、マンションの1室でもお買いになり、賃貸なされば税負担は1/5に軽減です。
対応策は色々考えられますが、現時点で借地権の存在しないことが解ったことだけでも儲けものと考えましょう。
事はゴルフ練習場だけではありません。テニスコートやバッティングセンター、一定の自動車教習場等々、借地権はもう一度見直した方がよいかもしれません。