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COLUMN

TOPATO通信同族会社株式の共有 5169号

ATO通信

5169号

2006年6月30日

阿藤 芳明

同族会社株式の共有

 相続での財産分けについては、”共有”状態、特に兄弟間の共有はなるべく回避すべきであることは、既に何度も繰り返しました。中でも同族会社の株式を兄弟で保有することは、最も面倒な状況を生み出します。この問題を先送りするとどうなるか、影響とその解決策を検証してみました。


1.問題の先送り

  兄弟で父親の事業を引継ぎ、活動をしている会社がありました。兄が社長で弟が専務です。この会社、時価が非常に高い都心に土地を保有し、そこに本社屋があったため、株価の評価もそれを反映して相当高額に。さて、全株式を父親が持っていましたが、その父親の相続です。会社の業況はあまり芳しくなく、兄弟は廃業も視野に入れていました。会社自体は残したまま、本社屋の場所にマンションの建築を計画したのです。ただ、その株式をどちらが相続するのか結論が出ず、父親個人の土地を含め総てをとりあえず共有。問題を先送りしてしまいました。


2.株式共有の問題点

 同じ共有でも同族会社の株式が面倒なのは何故でしょうか。土地の共有であれば、売却して金銭で分けることも可能です。しかし、上場会社と異なり、同族会社の株式は第三者に売却するわけにはいきません。会社の支配権に関わるからです。
 M&Αのように、株式を処分して業務を継続しないのであれば第三者への売却も可能でしょう。しかし、事業の継続が前提であれば、株式の処分はできません。兄弟で事業に対する意見が分かれ、袂を分かとうとしても、簡単ではないのです。20%の譲渡税を覚悟しても、売買の相手方は兄弟に限定されてしまいます。売るに売れない、購入する側も株価が高く金額的に難しいと言う状況になってしまいます。


3.法人が土地を売却すると…

  さて、マンションの建築計画も、借入れによる建築、等価交換等色々と検討しましたが、満足できるものがありません。結局、土地の売却となったのですが、ここで土地を売却すれば約50%の法人税等を覚悟しなければならないのです。もっとも、実質的には廃業を前提のため、従業員の退職金や繰越し欠損金の活用、不良在庫の処分等である程度は税負担の軽減も考えられます。また、そもそもこれを機に兄弟間の株式の共有を解消したい狙いもあるのです。何か他に抜本的な対策や工夫はできないものでしょうか?


4.会社分割という手もありますが…

 共有を解消するには、兄弟それぞれ自分が代表権のある会社を持ち、別々に活動をすればよいのです。その手法として、会社分割と言って一つの会社を複数の会社に分割する手法もあります。詳述は致しませんが、一定の要件を満たせば法人税等の課税もありません。但し、この課税を避けるためには、複数の会社の株主構成は分割前と同じでないといけません。つまり、兄の会社も弟の会社もそれぞれが現在と同じ共有状態と言うことなのです。そして、それぞれの会社の持ち分を、兄弟の将来の相続時に兄の持ち分は弟の子へ、弟の持ち分は兄の子へ無償で譲り渡します。これにより、最後は兄一家、弟一家がそれぞれの会社の株式を独占できる形態になるのです。この無償での譲り渡しは死因贈与か遺贈と言う形式を取りますが、相続税の対象となりますので注意が必要です。
  それにしても、この方法では何年先になるか分からない、兄弟それぞれの相続の時まで共有の状態を解消できず、またまた問題の先送りになってしまいます。


5.法人か個人か?

 結局のところ、兄弟いずれかが自分の持ち分を相手方に売却するより他に方法はありません。今回土地を売却するに当たっては、前述のように会社は残すものの実質的には廃業を前提です。会社の財産をカラに近い状態にすれば、株価自体も土地の売却前より低くなるでしょう。退職金という経費を利用して土地の売却益と相殺する予定ですが、従業員の他、役員である兄弟二人ともに退職金を支給させる方が有利です。そのためには、会社を引き継ぐ兄弟いずれかの配偶者や子を新役員に就任させることも必要です。株式の売却代金や退職金の額を含め、兄弟の最終的な取り分がほぼ同額になるようにするとすれば、円満に解決ができるでしょう。
 この手の会社の株式については、親族間での売買はその価格は自ずと税務上の制約を受けることになります。今回は会社保有の土地売却に絡めて共有を解消するため、何とか資金面の都合もつきますが、株価が高額な場合には、購入資金の点で解消ができないことも多いのです。経営は分散できません。同族会社の株式は、”一人に集中”が鉄則です。

※執筆時点の法令に基づいております