配偶者と内縁の妻或いは愛人という立場は、似ている部分もありますが、法律上は厳然たる相違があります。税務についても然りで、今回はその“妻の座”をどの程度の期間守り抜くとどれだけの価値があるものかを検証してみました。
1.民法上は1日でも妻になれば安泰!
税務の話の前に、先ずは民法上のおさらいです。
実態での判断の部分も無いわけではありませんが、こと相続については戸籍上の“入籍”が法的な保護を受けるための絶対条件です。逆に言えばわずか1日でも入籍していれば、その後直ぐに夫と死別した場合でも、妻の立場が主張でき法定相続分をゲットできるのです。
先般もこんな事例がありました。奥様が長年病床に伏しておられ、その間に飲み屋の女将と男女の仲になった男性の話です。この女将、ちょっと質が悪かったようで、奥様が亡くなるやいなや同居を始め入籍をせまったそうです。そうはさせじと長男は本人に成り代わって『婚姻届不受理の申し出』で防戦にでました。この届け、要は文字通り婚姻届を受理させず、入籍を防ぐための制度なのです。しかし、女の執念は凄まじいもの、市の職員に本人の意思でないことを説明の上男性を説得。長男が提出した届けを取り下げさせ、見事に後妻の座を獲得したのです。言うまでもなく、この男性には相当額の不動産があり、財産目当てであることは明々白々。げに恐ろしきは女性なり!気をつけよう、暗い夜道と何とやら。
2.身近な所得税の配偶者控除から
さて、税務に目を転じて身近な所から見てみましょう。所得税には配偶者控除の制度が設けられています。適用の有無は配偶者の所得金額だけが問題で、年間38万円以下であれば、一般の配偶者で38万円が本人の所得金額から控除される制度です。これは配偶者である期間に制限はなく、12月31日(年の中途で死亡している場合は死亡日)の現況で判断されます。但し、配偶者であるか否かは実質判断ではなく、入籍だけがその条件で、とにかく年末に入籍さえ済んでいればOK。逆に言えば、別居状態でも籍さえ抜いていなければ適用を受けられることに。
3.贈与税は20年“我慢”をした人だけに!
それに比べて条件が厳しいのは、贈与税の配偶者控除でしょう。何しろ入籍している婚姻期間が20年と言うのがこの制度の条件です。但し見返りも大きく、居住用の不動産2,000万円の贈与が非課税なのです。基礎控除110万円と合計すれば、2,110万円分が税負担無しで配偶者に移転できる訳で、それを考えれば20年は仕方がない条件かも知れません。もっとも古亭主に20年耐えた結果のご褒美が2,000万円、これが高いか安いかは各自のご判断にお任せしますが…。
なお、この制度も問われるのは戸籍上の婚姻期間だけで、夫婦仲は問われません。従って、贈与を受ける側の配偶者が贈与を受けた不動産に居住してさえいれば条件を満たすわけで、実質が別居である不仲の夫婦にも適用はあるのです。
老婆心ながらこの制度を活用する際のご注意を一つ。合計で2,110万円が非課税の枠ですが、金額は些少でも必ず土地だけでなく、建物部分も入れておきましょう。と言うのは、建物部分が含まれていれば、将来この不動産を売却することになった場合、居住用の3,000万円控除や場合によっては特例の低税率が適用できるからです。これら居住用の特例は、基本的に建物についての特例であるため、実態は土地の売却益であっても建物が存在しないとそれらの恩典が受けられないためなのです。離婚をして売却、換金化することをお考えの方には必須の知識です!
4.相続税は民法と同様一日でも妻の座を確保
ここでもう一度、冒頭の飲み屋の女将に戻りましょう。相続税にもご存じの配偶者の税額軽減制度が用意されています。法定相続分又は1億6,000万円のいずれか多い方の金額までは相続税がかからない優遇策です。これについても入籍が条件ですが婚姻期間は問われません。従って、前述の女将は男性にいつ万一のことがあっても、無税で少なくとも半分の財産を手にすることができるのです。これって何だか世の中の常識には合わない気がするのですが、画一的な処理を要求する法律上は避けられないことなのでしょうか?
しかし、一方で税法はとんでもない規定を用意しています。例えば同族会社の判定の際に適用される、同族関係者の定義として次のようなものがあります。
①株主等の親族、はいいとして②株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、と。つまり内縁の妻や愛人です。内縁の妻や愛人かどうかの確認のため、税務署が興信所まがいの尾行や探偵でもやるのでしょうか。税金を召し上げる場合はこの手の規定を作るのです。それはともかく、いずれにせよ男女の仲は入籍してナンボと言うのが法律の世界、税法の特典と考えた方が無難なようです。