『償却資産税』と言うのをご存じでしょうか?
正確には固定資産税なのですが、固定資産税は土地や建物だけではありません。個人でも法人でも、一定の設備や備品にまで固定資産税が課税されるのです。ただ、従来は個人にはお目こぼしも多く、実態としてはあまり課税もされていませんでした。
が、ここへ来て自治体も税収確保のため本気です。あちこちで根こそぎ過年分を含めて課税をしているようで、今後は対策が必要かも知れません。
1.課税がなされるまでの手順
まず、償却資産税が課税されるまでの手順をお話しましょう。各市町村に対し、1月1日現在で所有する一定の設備や備品の一覧と取得価額等を記載した申告書を1月末日までに提出します。
すると市町村は内容を吟味し、定率法による減価償却で未償却残高を計算。その合計額が150万円を超える場合、そのまま1.4%の税率を乗じて課税することになっています。課税する側が金額を決め、税額を通知する賦課課税方式と言われる課税の方法です。
2.課税の対象となる財産
計算自体は決して難しいものではありません。問題はどんな財産に課税されるのか、判断に迷うことも多いのです。一言で言えば、“土地、建物以外の事業の用に供する資産”となります。パソコン、コピー機、エアコン、応接セット等がまずあげられるでしょう。不動産貸付業ならフェンスや外灯、ゴミ置き場、アスファルト舗装や機械式の駐車設備も含まれます。これらは比較的分かりやすい対象物ですが、建物の電気設備や給排水設備、空調設備は問題です。原則として償却資産から外れるものの、細部は市町村により取り扱いはマチマチです。実務的にはその峻別にはかなりの困難性を伴います。
3.市町村はどうやって課税対象を把握する?
ここで素朴な疑問が生じます。市町村に対し、その手の財産はありません、と言う申告をしたら課税をされないで済むのでしょうか?税務署と異なり、市町村の税務調査はあまり聞かないし、仮に調査に来ても税務署ほど恐くないような気もします。しかし、結論から言えば、世の中はそれ程甘くありません。市町村だってちゃんと事実を把握しているのです。何故なら市町村と税務署はグルになっているからです。おっと、これは言葉が過ぎました。双方は協力体制を敷いているからなのです。
減価償却と言うのをご存じでしょうか。例えば建物を取得、建築して3,000万円かかったとします。建築業者に払ったこの3,000万円は直ぐに全額が経費になるわけではありません。建物としての機能は何十年にも及ぶことから、法律で定められた耐用年数に従い、長期間に亘って経費にしていく手続きです。税務署に対してはこの計算の明細を添付して経費を認めて貰うのです。
実はこの減価償却の明細が市町村の手に渡るカラクリになっていて、これから償却資産の内容が市町村にバレてしまうのです。冒頭に述べたように、従来市町村は特に個人分は力を入れていなかったのが、ここへ来て大変な力の入れようです。
4.減価償却の工夫がアダ?
さて、この減価償却ですが、例えば建物を新築、取得した場合、税理士としてはなるべく早期に費用化する工夫をします。まずは建物本体と給排水設備、電気設備等の各種設備を別々の資産に区分計上するのです。建物本体よりこれらの設備は耐用年数が短く、本体に含めて計算するより初期段階の費用が多額に計上できるからです。また、減価償却の方法も本体は定額法が義務づけられていますが、設備ならこれより早期に償却できる定率法という方法が選択、採用できるのです。
しかし、前述のようにこれらは市町村により取り扱いが異なるため、必要以上に償却資産の詳細を明示すると思わぬ課税が待っていることになってしまうのです。もし、建物や付属設備に含めて計上していたら、どうなるのでしょう?固定資産税として既に課税されていることになり、償却資産税の課税は免れてしまうのです。但し費用化される時期が若干遅くなるデメリットは覚悟しなければなりません。勿論、市町村が建物や付属設備の内容まで調査すれば、課税対象の償却資産の内容は明らかになりますが、現状そこまでの状況にはありません。つまり、税理士の工夫が結果としてアダ(?)になっていることにもなる訳です。
5.市町村によって異なる対応に問題!
実態としてこの償却資産税、力の入れ具合や把握状況も市町村によって相当違いが見られます。また、特に個人に対しては課税洩れが多いのも事実です。と言うより、少し前までは法人に対しても申告がなければそれ以上の追求をせず、みすみす課税のチャンスを逃していたのです。それが昨今は自治体の台所事情の悪化で、特に都市部では一転課税の強化に乗り出した、と言うのが実状のようです。狙われれば過去に遡って一網打尽、税務署の他にも恐い存在が一つ増えたようです。