給与の支払者は源泉徴収事務を負わなければならない決まりです。月々の給与における手続きはもちろんのこと、年末になれば年末調整も行います。法律で定まっているのですから仕方ないとはいえ、最近は税制改正を経るごとに事務負担は増すばかりです。
1. 源泉徴収と年末調整
給与の支払者は、源泉徴収義務者として月々の給与計算を行う必要があります。そして、源泉所得税を給与から天引きして税務署へ納付をしなければなりません。さらに年末になれば、年末調整事務を行って税金の精算手続きまでを本人に代行して行います。
これはまさに、給与支払者が徴税代行を行うという制度そのものと言えるでしょう。税務署としては徴税コストを民間に押し付けられるという大きなメリットがありますから、この制度を今後も手放すことはないでしょう。源泉徴収事務は仕方ないとしても年末調整はどうにかして欲しいものです。
2. 年末調整の負担が多すぎる!
12月末までの正確な情報を年内最後の給与支払時までに把握することが難しいからなのでしょう。医療費控除や、ふるさと納税などの寄附金控除は年末調整では計算対象外です。逆に言えば、それ以外は全て年末調整で調整可能です(雑損控除は除く)。このように、給与所得者はできるだけ確定申告をしなくても大丈夫なようにと設計されているのが年末調整制度です。ただし、給与が2000万円超の方は年末調整の対象外です。税務署が個別に把握・補足したい高額所得者と見ているのかも知れません。
年末調整の確認内容を要約すると次のようになります。
・配偶者(特別)控除や扶養控除・障害者控除など、いわゆる人的所得控除を全て確認
・生命保険料控除、地震保険料控除や社会保険料控除、小規模企業共済・ideco・国民年金基金などの支払額を確認
・所得金額調整控除の対象者か否かを確認
・基礎控除に制限がない方かを確認
・住宅ローン控除の有無を確認
このように、いくつもの確認・調整項目があり事務手続きが複雑すぎる!と感じるのは私だけでは無いはずです。
3. 基礎控除の確認はナンセンス
基本的には、今後も事務手続きが減るようなことは無いでしょう。年末調整時に行わなければならない事項は増え続けていくと思われます。
特に制度としてナンセンスだと思うのが基礎控除額の確認です。従前、所得税の計算をするときには誰もが基礎控除額を差し引くことができました。これが令和2年分からは控除に制限がかかりました。所得が2400万円以下の方は満額の48万円を控除できますが、2400万円超になると次のように減額されます。
2400万円超2450万円以下・・・基礎控除32万円
2450万円超2500万円以下・・・基礎控除16万円
2500万円超・・・基礎控除0円(適用無し)
例えば、給与収入が1000万円で年末調整を行う必要がある方がいたとします。ただしこの方は、給与以外にも別の所得があるためそれを加算すると所得が2400万円を超える見込みであるとしましょう。この場合、その他の所得状況も踏まえて年末調整を行うのが事務上の取扱いになっているのです。
つまり、勤務先に対して勤務先以外の所得までを伝えなさい。そうすれば正しい税金計算ができるはずだという制度設計をしたのです。現実的に考えれば、勤務先に他の所得状況を正直に答える人がどこまでいるのでしょうか?甚だ疑問です。そもそもこのような方は自ら確定申告を行っていると思われますから、年末調整で把握する必要がどこまであるのでしょうか。お節介すぎる制度だと感じてしまいます。
4. 令和6年は定額減税で負担増
今年は岸田首相肝いりの定額減税が行われる予定です。給与がある方は6月以降の給与・賞与から本人分3万円が最低でも差し引かれることになっています。どんなに多額の給料がある方も一旦は控除することになります。しかし、この定額減税は所得制限がありますので、所得が1805万円を超える見込みの方は年末調整時にその分が徴収されます。また、年末調整対象者ではない給与が2000万円超の方は確定申告時に納税させられます。またもや給与支払者の手間を増やす無駄な制度ができたと思ってしまいます。そもそも今回の定額減税は国会の討論でも言われていましたが、給付金として支給すれば良かっただけです。誰かの見栄?で導入された制度に周りが振り回されているだけに見えるのは私だけでしょうか。
5. 簡素でシンプルが一番
そもそも税金は簡素でシンプルが一番のはずです。徴税コストを肩代わりしている会社の事務作業をこれ以上増やさないで欲しいものです。