死亡退職金は原則として相続税の対象になります。ただし、この死亡退職金には生命保険金と同じように非課税枠が設定されているため「500万円×法定相続人の数」の金額までは課税対象から除かれます。せっかく非課税枠があるのですから、これを使わない手はありません。
1. 非課税枠を確認
相続人が受け取る死亡退職金は、死亡に係る生命保険金と同じように「みなし相続財産」として原則、相続税の対象になります。また、課税対象から除かれる非課税金額も生命保険金の非課税枠とまったく同じように定められています。生命保険金に非課税枠があることは知っていても、死亡退職金にも同額の非課税枠が設けられていることをご存知ない方もいるようです。この2つの制度をもれなく利用すれば、非課税枠は「500万円×法定相続人の数」×2と実質的に2倍になります。そこで、退職金の非課税枠を活用することを考えてみましょう。
ちなみに、非課税枠が利用できるのは相続人に限られますので、相続放棄をした人は対象外です。
2. 何が退職金になる?
そもそも、相続税ではどのようなものが死亡退職金として取扱われるのでしょうか。代表的なものを次に挙げてみました。
被相続人の死亡によって受け取った
● 退職手当金、功労金など(いわゆる死亡退職金)
● 確定給付企業年金からの年金又は一時金(いわゆる企業年金)
● 確定拠出年金からの一時金(いわゆる企業型DC又はイデコ)
● 特定退職金共済からの年金又は一時金
● 小規模企業共済からの一時金
退職金制度のある企業に勤めていた状況で亡くなれば死亡退職金や企業年金の一時金などを受け取れます。しかし、退職後に亡くなった場合は、死亡時における退職金の受け取りは一般的には無いことでしょう。
これに対して、個人事業主であれば掛金の支払いが必要ではありますが小規模企業共済に加入できます。この制度はイデコなどとは異なり、いつまでに共済金を受給しなければならないという取り決めはありません。相続時まで事業継続すれば相続人は共済一時金を受け取ることができ、死亡退職金扱いとなります。また、同族会社の役員は同様にこの制度に加入できますし、死亡時にはその同族会社から死亡退職金を受け取ることもできます。このように個人事業主や同族会社の役員であれば、死亡退職金を受け取る機会を作ることができます。是非、退職金の非課税枠を上手に活用しましょう。
3. 相続税の対象は3年以内に確定したもの
先ほど挙げたものが相続税では死亡退職金になるのですが、ひとつ注意点があります。それは、死亡後3年以内に支給が確定したものだけが相続税の対象になるということです。これが、冒頭で「原則として」と記載した理由です。3年経過後に支給が決まった死亡退職金は相続税の対象からは外れて、受け取った相続人の一時所得として所得税の対象になります。退職金の非課税枠を利用したいのであれば3年以内に支給を確定させるようにしましょう。
なお、所得税の対象になっても一時所得は2分の1課税であるため、実質的な税負担率は最高でも27%程です。退職金の非課税枠を用いればその範囲内の税負担はゼロですが、超えた分は相続税が課税されます。
そこで、相続税より低い税負担になりそうだからと、同族会社からの死亡退職金を3年経過後に決定したらどうなるか?資金繰りや経営上の問題などの理由があれば良さそうですが、時期を遅らせただけというのは理由にはならなそうです。基本的に死亡退職金を支給した法人側は損金として経費になるのですが、法人税では時期が遅れた理由が問われることでしょう。
4. 非課税枠が残っていたら
相続人が3名であれば退職金の非課税枠は1500万円です。同族会社の役員であったため小規模企業共済にも加入しており、死亡に伴う共済金を相続人が1000万円受け取っていたとします。この場合、非課税枠はまだ500万円残っています。それならば、同族会社から死亡退職金を500万円支給しましょう。会社に退職金規程が無かったとしても株主総会などで支給を決定すれば問題ありません。すでに相続税申告が終了していたとしても3年以内であれば支給決議をして支払うのはどうでしょう。
5. 弔慰金も活用する
死亡退職金とは別に弔慰金の取扱いも覚えておくと良いです。弔慰金は、通常は被相続人の最後の月額普通給与の6ヶ月分までが非課税扱いになります。退職金の非課税枠とは別なので、これも合わせて利用すれば非課税枠が実質増えるようなものです。例えば、同族会社の役員で月額50万円の給与であったのなら、300万円までの弔慰金を別途非課税扱いで支給できます。
同族会社からの退職金や弔慰金の水準は実務的には生前の給与を参考にして金額が決定されます。退職金の非課税枠を意識しておくのがポイントです。