一般的に相続財産を分割する際、共有は避けた方がいいと言われています。特に兄弟間の共有は、将来意見の対立も予想され、禍根を残すことにもなるからです。親子や夫婦の共有はそれに較べれば、対立は少ないかも知れません。そのため兄弟間の共有より安易に考えがちです。が、とんだ落とし穴が待ち受けていることも。
1.夫婦で財産を共有の事例
女性ばかり4姉妹のお父様の相続です。通常は父親である一家のご主人に財産があることが多いのですが、このケースはご主人が養子という立場。財産の大半は土地なのですが、総ては奥様との共有でした。この状態、つまり相続人は奥様と4姉妹の構成でご主人が亡くなられたのです。多額の相続税を前に、相続人に残された道は駐車場用地の売却処分だけでした。と言うより、納税資金確保のため更地の駐車場にしておいたのが実状です。
2.相続財産を売却すると…
相続財産を売却すると、売却の時点で今度は譲渡税が待っています。相続税と譲渡税で二重課税のような感じもしますが、そうではありません。相続したことと、それを売却することは、税務上別々の事柄なのです。それはともかく、相続財産を相続税の申告期限から3年以内に売却すると、相続税の一部が譲渡税の経費になるような取り扱いがあります。その結果、譲渡税の負担が軽減することになるのです。ここで計算の詳細には触れませんが、目安として売却価格が売却した相続人の負担する相続税額の内、土地に相応する額以下なら、譲渡税は課税されないと考えていいでしょう。これを相続税の取得費加算の特例と言います。
3.奥様の持ち分は適用外!
さて、この特例、あくまでも対象となるのは相続財産です。駐車場の土地もご夫婦の共有。つまりご主人の持ち分は確かに相続財産ですが、奥様持ち分については、売却してもこの特例の対象とはなりません。売却した土地の半分は、何の特例もなく単純に譲渡税が課税されてしまうのです。
4.売却の前に工夫が出来ないか?
そこで、はたと考えます。『共有物の分割』をし、その後『交換』と言う手は使えないのだろうか。つまり、売却の前に駐車場の共有状態を解除してご主人分と奥様分を分筆し、完全に二つの土地に分けてしまうのです。更に駐車場以外の土地(甲土地とする)もご夫婦の共有になっているため、こちらについてもご主人分と奥様持ち分を分割。ここまでの作業をして、もし価格が見合うなら、駐車場の奥様持ち分と甲土地のご主人分を交換すれば、駐車場は完全にご主人分だけのものになります。その上でご主人分の土地だけを処分すれば、総てが相続財産。晴れて取得費加算の特例が使える事になるわけです。
しかし、この時点では既にご主人は他界しており、分筆作業に関わることは出来ません。亡くなった方と協力して共有物を分割し交換することなどできないのです。つまり、とにかくいったんはご主人分を相続人が相続をし、その上で奥様分と相続人分を分筆し、分割しなければなりません。
ただ、それでは駐車場の内、交換した部分については取得費加算の特例の適用は受けられません。その形態になってしまうと、もはや相続財産ではないからです。
5.配偶者が適用する場合には要注意!
ここで、この特例を適用するに当たって、注意すべき事があります。それは、譲渡税が軽減されるためには相続税の納税があることが前提、ということです。特例の趣旨には、相続税を負担しているのだから、売却時には少しでもその負担を軽減しようと言う狙いがあるからです。従って相続税の負担をしていない場合には、譲渡税の特例の適用がないと言うことなのです。具体的には、配偶者の場合、この事例では法定相続分である財産の1/2までは相続税の負担はありません。そのため、仮に配偶者にも特例を適用させるためには、奥様も1/2以上の財産を相続し、相続税の税負担を負う必要があるのです。
6.物納なら可能性も…
ここでもう一捻りしてみましょう。売却ではなく、物納という手段はどうでしょうか。物納が出来る財産は、原則としては勿論相続財産です。しかし、相続財産の他に『転得財産』でもいいことになっています。転得財産とはあまり馴染みのない言葉ですが、要は相続財産その物ではなく、相続財産が転じて形を変えたもの、と理解すればよいでしょう。そうだとすれば、前述の甲土地と駐車場の交換の後、駐車場を4姉妹の物にすればよいのです。この交換によって駐車場は相続財産と、相続財産からの転得財産と言うことなり、物納が出来る財産となり得るからです。
いずれにせよ、共有状態は後々面倒な手続きが必要です。相続財産の分割に際しては、相続の時点ではっきりと各人の取り分を決めておくべきなのです。共有はあくまで問題解決の先送りに過ぎないと認識しておく必要がありそうです。