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TOPATO通信こんな決算対策は是か非か? 5233号

ATO通信

5233号

2011年10月31日

阿藤 芳明

こんな決算対策は是か非か?

 『このまま決算を迎えると、かなりの利益が出そうで心配だ。』儲かった訳ですから、本来は喜ぶべき事態です。しかし、現実にはその後の税金の支払いが待っています。それを考えると、めでたさも中くらいなり、おらが春、になってしまう事も多いのでしょう。そこで考えられるのが、いわゆる”決算対策”です。それらの中で、実質的には資金が外部に流失する訳でもなく、簡単にできる次の方法の是非を検討してみましょう。


1.所有型法人における地代の前払い

 先ず、今回の話の中心は、当事務所ではお馴染みの所有型法人です。つまり個人でお持ちの土地の上に、法人で建物を所有し賃貸している、そんな法人での決算対策です。この法人、土地は個人のものであるため、当然毎月の地代を支払っています。  初めに決算対策の内容をお話すれば、この地代を決算期末に1年分まとめて前払いをすると言う、ただそれだけのもの。これがどうして決算対策になるのか、以下で詳述していきましょう。


2.短期前払費用は全額経費!

本来は収益も費用も、その発生した期間に適正に割り当て計算をし、最終的な確定数値を算出するのです。これが会計の基本的な考え方ですから、期末に前払費用があれば、当期の費用から除外し、翌期以降の期間に対応させるべきなのです。  但し、法人税の基本通達と言って、法律ではありませんが、税務職員が職務を遂行する上での社内規定のようなものでは、次のように取り扱っています。『前払費用の内、支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものを、短期の前払費用として、条件付で支出した期に全額を経費とする』ことを認めると言うものです。その条件とは、 (1)一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるための支出であること
(2)役務の提供期間が1年以内のものに対する支出であること
(3)毎期継続して処理すること
(4)その費用が収益の計上と対応させる必要がないものであること等です。
上記は法人税についての規定ですが、所得税でも同様の扱いです。


3.短期前払費用の具体例とその手法

上記の規定を利用して、具体的には家賃、地代、借入金利子、保険料等を早目に支払っておくと言う決算対策が認められることになるのです。 例えば、この所有型法人は、毎月地主である個人に地代を払っています。それはそれで通常の経費なのですが、決算期末に地代の支払方法を、毎月払いから前年度末の一括払いに変更するのです。これでこの年度の地代は丸々2年分が経費となる勘定です。ただ、翌期以降も前払いで1年分の地代が前払いになりますが、2年目からはこの前払い分だけが経費に算入される計算です。つまり、決算対策の効果は、月払いから年払いに変更した年度だけではあります。もっとも、決算対策とは、言ってみれば苦し紛れの対応方法、その程度のものと考えるべきなのかも知れません。


4.前払金と前払費用との相違

さて、ちょっと専門的になりますが、前払費用とは、あくまで一定の契約に基づき、継続的に役務の提供を受けることが前提です。つまり、サービスの等質性・等量性が求められるのです。  これに対し、新聞・雑誌への広告掲載料、旅費の前払い等は特定の役務提供のためのものとなっています。従って、継続的な役務提供ではないので前払金とされ、前払費用と区別されているのです。税理士や弁護士への顧問料も等質、等量ではないので前払金です。  余談ですが、情けない税理士や弁護士の場合、毎月等質、等量のサービスしか提供しないケースも散見されます。が、残念ながら、ここは建前論で判断するしかなさそうです。(当事務所はどうだ?)


5.通達の注意書きと重要性の判断

話は地代の前払いに戻りますが、形式的、性格的には全く問題はありません。ただ、一つだけ前述の通達で注意すべき点があります。前述2.(4)の部分がそれで、実際の通達では、次の様な記載があるのです。『例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る利子のように、収益と対応させる必要があるものについては、短期前払費用の取扱いの適用がない』と謳っている点です。  今問題にしている法人は所有型法人で、支払うべき地代は受け取る家賃と対応させる必要がない、と断定できるものではありません。となると、実務ではその重要性が問われる事になるのです。  ここに重要性とは、色々な考え方があり、現実には議論百出です。費用を支出する法人にとって、
(1)原価要素となるもの
(2)重要な営業費用となるもの
  は対象外とする考え方。また、ズバリ金額的な判断だけ、との考え方もあります。
 実際に問題になるのは税務調査においてです。税理士としての信念と、理論的な説得力と、最後は大きな声が決め手でしょうか。

※執筆時点の法令に基づいております