前号で贈与税の調査はほとんど無い、なんて書いたからでしょうか。2件連続で贈与税の調査に立ち会うことになってしまいました。
その2件とも、共通するのは鑑定評価で土地の評価を行っていることです。税務署が鑑定を嫌っているのは確かですが、だからと言って調査を恐れる必要はありません。適正な評価で適正な納税を!が、内容が適正でも、時にはこんな事情も…
1.税務署が贈与を把握するのはこんな時!
資産の移動の事実が税務署に把握される最も典型的な例は不動産でしょう。売買や贈与により移転登記が行われると、必ず税務署の目に触れる事になります。税務署は定期的に登記所で登記情報の収集を行っているためです。
その他にも、税務署からの各種のお尋ねや法定調書、貴金属や高級品を扱う店舗での情報収集等贈与税の課税のための努力には事欠きません。
しかし、それでも全体から見れば、贈与の事実は極限られた部分でしか把握できていないと言うのが実態でしょう。税務署にバレなければ、申告などしなくてもいいと言うものではありません。贈与の時点で直ぐにその事実を把握されることは少なくても、後々問題になることも多いのです。とりわけ相続税の調査では、名義預金や贈与の事実が明らかになることが多いのです。相続税の申告書を提出すると、それを基に被相続人と取引のあった総ての金融機関に対し、相続人やその他の親族の預金の有無、取引状況の照会を行っているからです。
後々問題とされ、疑いの目で見られるようなことがないよう、正々堂々と計画的な贈与を実行することにより、着実な相続税対策を行いたいものです。
2.財産評価基本通達と不動産鑑定
相続税でも贈与税でも、財産の評価は”時価”で行うことになっています。ただ、時価と言っても判断が難しいため、実務上は国税庁が定めた財産評価基本通達なるルールブックで評価計算を行うことが通常です。この通達、税務職員を縛るルールであるため、彼らがこれに拘るのも分からない訳ではありません。しかし、特に不動産、土地については様々なケースがあり、総てをこれで割り切る事の方が、理論的には無理があるのです。
ただ、そうは言っても現実には鑑定による評価を基に申告をした場合、税務署の課長職である統括官自らが調査を行い、その適否を判断する事になっています。分かり易く言えば、通達が正しく、それに従わない鑑定を疑ってかかるのです。
3.鑑定評価に基づく贈与の申告
ATOでは将来の相続税対策として、毎年積極的な贈与をお勧めしています。現金や債権等はもとより、土地等の不動産についても、前述の財産評価基本通達では適正な評価が得られない場合、鑑定に基づく評価、申告を行ってきました。
相続税でも贈与税でも申告書を提出すれば、税務署はその内容を検討・審理し、疑義のあるものについて実地の調査をすることになります。
しかし、正直な話、その検討・審理は相続税におけるより贈与税ははるかに甘く、上記の鑑定評価に基づく申告も、贈与税では問題になることは極めて少なかったのです。前号で述べたとおり、30年近く税理士をやっていて、先般が初めての贈与税調査の経験。が、続いてまたまた贈与税の調査です。鑑定評価によることのみならず、金額的にも多額なためなのでしょうか。
4.税務調査は面倒ではあるけれど
お客様にとっても、そして我々税理士も税務調査は決して楽しい作業ではありません。しかし、だからと言って、鑑定に基づく申告が必ず調査の対象になるとすれば、それを避けるため、評価通達で実態を反映しない申告をすることがあるべき姿なのでしょうか。適正ではない評価額でも、甘んじてそれに基づいて申告をするべきなのでしょうか。それは税理士としての筆者の信念には反する行為です。申告納税制度である以上、税務調査は避けられません。世の中には税務署を欺き、税金をごまかす輩は五万と存在します。そんな連中がいる限り、税務調査はなくなりません。
しかし、評価通達に基づく評価が適正ではなく過大な場合も、現実には相当数に上っています。脱税は断じて許されませんが、必要以上の税金を納めることもないのです。そのために鑑定評価が必要であれば、税務署には是々非々で対峙しなければならないのではないでしょうか
5.贈与税の税務調査の結果は
この原稿の執筆時点ではまだ調査の結論は出ていないため、現状報告です。鑑定書による申告の場合、想定の開発図面の添付を求められる事が多いのです。が、この事案、実測が困難なため開発図面を添付しなかったのです。現場を見て担当官も鑑定評価に納得のご様子。しかし、図面添付ができない事情を承知の上でそれを求めてきたのです。彼らには書面での報告義務が課されています。さてはこれを提出させて報告書にその旨を記載。担当官の対応から一件落着と筆者は睨んでいます。